伝説の神子
白いふわふわの神様は考えました。
どうしたら、こちらの国の人々が自らの命を大切にするのかを。
小さくなってしまった身体で精一杯考えました。
小さくなったから、わかること。

神様は、もう一度、そちらの世界を覗き込んでみました。
そちらの世界の人間は、小さきものを愛でていました。
耳の長いふわふわの小さきもの。
大きな空を飛ぶ幻のいきもの。
たくさんのいきものを愛でていました。
物語もたくさん覗いてみました。

神様は、またひらめきました。
もう大きく手を叩きながら笑うことはできませんが、ひらめき、くるくると回りました。
くるくると回りながら、もう一度力を使いました。
神様の身体の中にはもうほんのひとかけらしか力は残っていません。
それでも神様は幸せでした。
どこからか、戦争で上がる黒い煙がひとつ、またひとつと減っていったからです。
そして、残った片眼で見つめた神様の愛おしい子が、嬉しそうに笑ったからです。

こちらの世界の人々のもとには、自らの気持ちを表してくれる心の友達が生まれました。
初めて見る形のものに人々は混乱しましたが、喜びました。
初めて生まれた、喜ぶという感情に、人々は涙を流しました。
彼の愛おしいリリウムはとても優しい気持ちを持ち、命の大切さを学びました。
そうしてリリウムは国を作りました。
とても優しく、美しい国です。
領土を広げることをやめたのです。
強欲さが、罪であることを知ったのです。

それでも、強欲さが罪であることを知らない国がありました。
リリウムの国の隣の国です。
この世界を美しくしてほしい。
神様の子は、忘れかけていた、大切な神様の願いを思い出しました。
そうして、王となり、新たな名前がついたリリウム・ルベルムに願いました。

「隣の国に連れて行って欲しいのです。この世界を、美しくするために。あなたのような、優しい気持ちを抱いてもらうために」

リリウム・ルベルムは、神様の子を隣の国へ連れて行くことにしました。
大切な神様の子のことを、いつのまにか愛していたリリウム・ルベルムは彼の願いを叶えてあげたいと心から願ったのです。
そうしてリリウム・ルベルムと、神様の子は隣の国へ赴きました。

隣の国は、とても綺麗な白い鉄仙が咲き誇っていました。
綺麗な鉄仙を見て、神様の子は涙をこぼしました。
神様の子は、リリウム・ルベルムとともに、金色の髪の男と出会いました。

「…名前は、ないのだろう。さあ、神子様、私にしたように、彼にも名前を差し上げてください」

リリウムの言葉に、男は目を見開きました。
自分が戦っていた相手のその暖かい表情に。
そして、彼の隣にいる美しい漆黒の髪をなびかせる神様の子に。
男の隣にはとても綺麗な大きな蛇がいました。
リリウム・ルベルムの隣には、大きな銀色のドラゴンが座っています。

「この国は綺麗なデッセンが咲いているのですね。あなたをデッセンと呼びましょう」

「デッセン、この花はデッセンと呼ぶのか」

「ええ、とても美しい花でしょう」

「そうか」

金色の男の瞳から、綺麗な涙が流れました。
花の名を何度も呼ぶ男は、涙が止まってから戦争に向かっていた国の足並みを止めました。
戦争が終わった国は、あることを知ります。
小さき心の友達の愛らしさを、そして家族の愛おしさを。
守らなければいけない存在が、彼らの強欲さを小さくさせたのです。
そして花の美しさを、この国の美しさ知りました。
デッセンと名付けられた男は、後にこの国の王となりました。
この国の王となったデッセンには、デッセン・クレマチスという新しい名前が付けられました。
彼らは千年と少し続いた戦争を終わらせました。
その後、神様の子は愛おしいリリウム国王と実を結び、新たな命を育みました。

それでもまだ、世界は美しくなったのか不安に思った神様の子は、目元に小さなシワの入った愛おしい夫と共に、残りの5つの国を周り始めました。
彼らの進んだ先には、5つの美しい花が咲き誇る国がありました。
神様の子は、それぞれの国に名前を付け、7人の王様と出会い、世界は美しくなりました。

こうして、神様の選んだ愛おしい子は、神様の望んだ美しい世界を作り上げたのです。
白いふわふわの神様は、嬉しそうにくるくると回りました。
数少ない、長く持たない記憶の中、美しく笑う愛おしい子の笑顔だけが残りました。
prev | next

back

Secret Story | text
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -