とある昔話
昔、まだこの世界にある7つの国に名前が定まっていない頃。
とある小さな国と、それと同じくらいの大きさの国がありました。
そのふたつの国は、ほかの国よりも少しばかり大きな国で、少しばかり文明が栄えていました。
ふたつの国は、強欲にも領土を広げていきました。
領土を広げていく強欲の先には、長い長い、千年間続く大きな戦争が待っていました。
戦争が始まったきっかけは誰も知りません。
人々は戦争で死に、病で死に、自らの命を絶ち、短い命を消費していくだけでした。
そして、千年間なぜ戦争が続いたのか、誰も分からなくなってしまったのです。
戦争が続き、7つの国はそれぞれにつく国、中立の立場をとる国、様々な国に分かれました。
長い戦争は次第に国民を疲弊させ、命を消費していきました。

戦争が続き、千年と少したった日。
真ん中の島の神様は、その長い日々をずっと、長い間ぼんやりと眺めていました。
真っ白な長い綺麗な髪をふわふわと揺らしながら、うら若き見た目の神様はぼんやりと眺めていました。
神様は、戦争が始まった理由を知っています。
そして、その戦争が早く終わることを願っていました。
神様は、神様なので、戦争を終わらせることはできません。
なぜならば、神様は、人間が始めたことに手をかけることができないと決められていたからです。
ふわふわの神様は、たくさん考えました。
どうしたら戦争を終わらせることができるのだろうか、と。

「ああ、そうか。私が終わらせることができないのならば、他の者が終わらせればいいのか!」

神様は、自分のひらめきに大きく手を叩きながら笑いました。
神様は、戦争のない平和な世界を知っています。
そちらの世界の人間は、誰もが皆、形に違いはあれど、幸せな気持ちを持っています。
そして、その幸せな気持ちは、こちらの世界では幸運となり、きっと戦争を終わらせ幸せな世界を作り上げてくれるでしょう。
神様は、決めました。
そちらの世界から、ひとり、幸せと不幸を知っている者を連れくることを。

「不幸も知っていた方が、悲しみや苦しみを少しでも減らしてくれるはず」

神様は、そう信じて自身の力のほとんどを使い、そちらの世界へ腕を伸ばしました。
神様は、そちらの世界で生きている人間を連れてくるには年老いていて力が足りませんでした。
なので、誰かを恨むことを知らない純粋な魂を持ち、不幸にも誰かに殺されてしまった、可哀想な死人の魂を連れてくることにしたのです。
神様の伸ばした手は、そんな可哀想な魂を捕まえました。
その魂は神様に捕まえられた瞬間、身体のつくりはこちらの世界に合わせるためにちぐはぐになっていきます。
3年という長い時間をかけ、ようやく神様が選んだ愛し子が作られたのです。

「さあ、僕の愛しい神の子。僕の世界を美しくしておいで」

そうして、神の子は、こちらの世界へ適当に落とされます。
神の子は落とされる時に、神様にこう言いました。

「僕はこの世界を美しくする。だから、あなたもそんなに悲しい顔をしないで」

神様は、うら若き美しい姿から、白いふわふわとしたものになっていました。
もう自分の姿を保つことができなかったのです。
神様は、また新しい神様の身体が出来上がるまで、この姿で過ごさなければなりません。
それは不便で、記憶も長く保てません。
それでも、その愛おしい神の子は神様の姿を見つめていました。
神様は、この姿でいることも、悪くはないと思いました。
なぜならば、こんなにも美しい子と出会えたのですから。
美しい世界を作り上げて、幸せに笑って欲しい。
神様は、心からそう願いました。

神様の子は薄紅色のとても美しいユリが咲き誇る国へ落ちました。
戦争など知らない神様の子はぼんやりとその美しい世界を見つめていました。
死んでしまった身体はどこも傷ついていない。
夢の中で出会ったあの美しい神様の言葉を思い出して、立ち上がりました。
どうすればいいのかわからないけれど、神様の子は歩み始めました。
進んだ先で見つけたのは、銀色の髪の美しい男でした。

「あなたは誰」

「名前はない」

「それならば、あなたはとても美しい百合のようだから、リリウムと名づけましょう」

そうして男はリリウムと名付けられました。
それから神様の子は、リリウムと生活を共にしました。
戦争はそれでも続きます。
神様の子もともに戦争へ赴きました。
悲しい世界に、涙を流し、戦争をやめてほしいとリリウムへ伝えました。
なぜ戦争をしているのか、なぜ命をたくさん消費していくのか、綺麗な漆黒の瞳を濡らしながら伝えました。
リリウムは、神様の子にそのようなことを聞かれ、なぜなのか考えました。
考えてもわかりません。
戦争をすることが、リリウム達にとっては当たり前のことだったからです。
そして、初めて神様の子は、自分がリリウムのことを愛してしまったことに気づいたのです。
だから、彼に命を消費しないで欲しかったのです。
何かが欠けているこの国の人たちを思い、神様の子は神様へ願いました。

「どうか、彼らが命を大切に思いますように。命を愛おしみますように」

その願いは白いふわふわの神様に届きました。
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