鉄仙寮
鉄仙寮の錆浅葱色の壁に囲まれた廊下をシランは、少し急ぎ足で歩く。
足元のヒヤエナが急げとばかりに膝裏を鼻先でつついてくるからだ。
すまないと謝ってもヒヤエナの機嫌は斜めで、後でお詫びをしないといけないと苦笑した。

「ヒヤエナ、後で美味しいものでも準備するから」

フンっと鼻先を鳴らしたヒヤエナに小さく笑った。
ラミの可愛い行動に、癒されるような気がする。

ようやくたどり着いた自室の部屋を、自身のもつ鍵で開ける。
ヒヤエナが待ち遠しそうにカリカリと床を爪で引っ掻いた。
そんなヒヤエナに笑いながら、シランは深い緑色のドアを静かに開いた。
ジャンネットも既に来ているようで、共有ルームから賑やかな声が聞こえる。

「やけに賑やかだな」

「お、やっと来たか。遅かったな」

「ジャンネット、迎えありがとう。稽古で右手を痛めて」

「ヒヤエナを通じて確認したからわかってる」

「それはどうも」

共有ルームに入れば、ミハエルがソファーに腰を下ろしている。
おかえり、と声をかけられて、返事をしながら自室へ荷物を運んだ。

「天気が悪いから、体調も悪いだろう」

「まあな、レイチブもあまり外に出たがらない」

「俺のプリンセスもそうだ」

「ハチュウルイ系のラミは大変だな」

ひとりがけのソファーに腰を下ろしているジャンネットの膝の上に、ヒヤエナが嬉しそうに飛び乗った。
もふもふの毛並みを撫でながら笑う彼を見て、シランは苦笑する。
目の前のミハエルも自身の隣でとぐろを巻いているプリンセスをなでている。

「まあ、君は特殊だからな、レイチブも外に出たがらない理由があるのだろう。さ、着替えておいでよ」

「すまない」

手のひらをひらひらと振り、自室へもう一度戻った。
室内の衣紋掛けから浴衣をとり、腕を通す。
浴衣に着替えて外に出れば、ジャンネットが口笛を吹く。

「ヒガシの国のキモノとやらはいつ見てもミヤビだな」

「お前が言うと馬鹿にしているように聞こえるよ、ジャン」

ミハエルが笑いながらそういうのを聞き、シランも苦笑した。
昔から着ているものの方が落ち着く。
そう伝えてミハエルが準備してくれたものは、もう着古して3年は経ったはずだ。

「さあ、目的の話をしようか」

目の前に準備されているお茶に手をつけて落ち着く。
ようやく現れたレイチブが心地よさそうに大きく尾を振った。


「伝説の神子の話はシランにはしていないからそこからだな」

「ああ」

苦い思いをするような表情を浮かべたジャンネットを横目に頷いた。
昔話をするように目を瞑りながら話すミハエルに、シランも釣られて目を瞑る。
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