ベッド
「ベッドが届いたな」

出窓の傍に収まったリリーのベッドにダリオが満足したように鼻を鳴らした。
ダリオとルキーノがふたりそろって何日間も休むとなると、訝しまれる可能性があるため今日はルキーノが登校している。
そのため、リリーはダリオとふたりきりだった。

リリーがこの世界にきて三日目。
ラミの存在にはもう馴染んだし、制服やここで着るもの、食べるものにも慣れてきた。
それから、リリーが置かれている状況もなんとなくわかった。
不安がないかといえばそれは嘘になるし、まだまだわからないこともたくさんある。
それでも、ダリオやルキーノ、コマクサが自分に悪いことをしないことだけはリリーはわかった。

リリーのベッドは白くてふかふかだ。
柔らかなレースが天蓋のようについていて、キラキラと金色のライトがついている。
淡い色で構成されたそれに、リリーは思わず頬が緩んだ。

「ダリオが選んだの?」

「そうだが、気に食わなかったか」

「ううん、とっても可愛いなって。気に入ったよ」

「リリーに似合うと思ったんだ」

「そっか」

ふわふわなベッドに腰を下ろしてみる。
柔らかくて、よく眠れそうだ。
オトメも嬉しそうにベッドの上をはねていた。

「喜んでくれてなにより」

ダリオはそっと指先をオトメに差し出してみた。
ちょんっとキスをするように触れてきたオトメに一種の感動のようなものを覚える。

「ダリオも座る?」

「…、いや、いい。私はここで」

リリーのベッドのそばに設置されたソファーに腰を下ろす。
自身で入れた紅茶を口に含み、嬉しそうなリリーを眺めた。
しばらくベッドを撫でてみたりしていたリリーは落ち着いたのか、ベッドにこてんと横になった。

「ダリオ、どうして僕はこの世界に来たのかな」

そう呟いたリリーの瞳にはどこか憂いが見られた。
リリーの黒髪に手を伸ばし、柔らかなそれに指を通す。

「私たちの世界にリリーが呼ばれたのには理由がある。この国を、この世界を平和に保つために」

「…、僕には、荷が重い気がするよ…」

小さなつぶやきは、リリーを幼く見せた。
愛おしいその存在の髪を何度も撫でる。
慰めにはならないかもしれないが、ダリオはその愛おしさが少しでも伝わり癒されればいいと思えた。

「リリー」

「…ん?」

「お前はここにいてくれるだけでいい」

ダリオの言葉に小さく頷いて、リリーは目を瞑った。
部屋の中は甘く、優しいチョコレートの香りで満たされている。
とても穏やかなその香りに、少しずつ眠気が訪れた。
ダリオのそばは安心できるね。
そう伝えたくて開いた唇は力なくふにゃふにゃと動くだけで、何も伝えられなかった。

白いベッド、白い布団、柔らかなレースに包まれたリリーはとても美しい。
儚さを感じさせる身体のラインも、この世のものとは思えないくらい美しかった。
リリーの穏やかな寝息は聞いていて心地が良い。
静かになった部屋の中、ダリオは身体をソファーに沈めた。
そばにいたロジーも寝息を立てている。
ダリオ自身もかすかに眠気を感じ始めていたが、まだリリーを眺めていたかった。
消えてしまいそうだ。

「…、リリー」

小さく漏れ出た愛子の名前はとても甘ったるく感じて、ダリオは思わず苦笑した。
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