ミハエル・クレマチス
木製の大きな扉は植物のレリーフが美しい。
落ち着いたモスグーリンがメインの教室は、静まり返っている。
休憩時間である今、ミハエル・クレマチスは窓際の席で目を瞑っていた。
目を瞑り、深呼吸する。
ミハエルは己のラミと自身の感覚を深いところまでつなげ、目的のものを探していた。

「ミハエル」

ふと声をかけられ、目を開く。
そこには友人であるジャンネット・ルベルムの姿が見えた。
緑色の鋭い瞳に金色の短い髪が、彼の精悍さを表している。
ミハエルは目の前のジャンネットに笑みを浮かべた。
そしてもう一度目を細める。
細い目はどこか爬虫類を思い出させた。

「やあ、ジャン。元気か」

「毎日顔を合わせているだろうが。…なにか探っているのか」

「ああ、警監委員会のふたりがいないだろう」

「そういうことか」

ジャンネットと会話を交わしながらも、ラミであるプリンセスの感覚の共有を続ける。
ミハエルはジャンネットが目の前の席に腰を下ろしたことを感じた。
ジャンネットは静かに己のラミの頭を撫でる。
彼のラミはヒヤエナと言う名のハイエナだ。
きらめく白銀の毛が混じった灰色の美しい肢体をもつハイエナである。
ミハエルのラミは金色の大きなヘビだ。
かすかな振動を感じたヘビのプリンセスから感じ、対象となるものを探す。
大きな身体を巧妙に隠しながら進むプリンセスからの感覚は繊細だ。
そのことをわかっているジャンネットは静かにそのときを待っているようにミハエルには感じた。

その時、プリンセスの感覚が鋭くなった。
どうやら邪魔が入ったようだが、収穫はあった。
ミハエルは小さく笑いながら、うっすらと目を開く。

「邪魔が入ったか」

「ああ、だが収穫もあった。さすが俺のプリンセスだ」

「後でネズミでも渡すんだな」

「ジャンも言うねぇ」

軽口を叩きながら、大きく背伸びをした。
それからジャンネットに笑いかけてみる。
ミハエルは美しい表情を浮かべるが、その表情はどこか狡猾さを感じさせた。
ジャンネットとはまた違った男らしさも併せ持っている。
狡猾さを感じさせる笑みは、周りを複雑な感情にさせた。

「どうやら面白いことが起きそうだ」

「みつけたんだな」

「ああ、俺たちの敵は何か大切なものでも見つけたようだ。プリンセスを探しに来た大きな馬鹿鳥が追い払うように動いていたからな」

「まあ、信じちゃあいないが、あの昔話が事実ならば、疑っても損にはならねぇな」

「だから言っただろう。俺たちの代で大きく変わるって」

「お前のその信心深さには、脱帽するぜ」

呆れたように笑うジャンネットに、ミハエルはニンマリと笑みを浮かべた。
二日間休んでいるあの憎いダリオ・ルベルムにできた弱点かもしれないそれに、今日はいい日になるな、なんて悪友に囁く。

「ほんとラミは本人の心の表れっていうが、お前はそのまんまだな」

「お前のもそうだろう。ハイエナね」

「まあ、な」

戻ってきたプリンセスがミハエルのつま先から撫ぜるように登ってくる。
首元にゆったりと巻き付いたプリンセスに口付けて見せれば、ジャンネットが呆れたように笑った。

「そういえば、シランはどこに行ったんだ」

「ん? 休憩時間だから、稽古をつけにでも行ってるのだろう」

「マジメだな」

「それがシランの取り柄だろう」

「お前はその爪の垢でも煎じて飲んだほうがいいな」

「何度も言うがそれはお前も同じことだ」

ここにいないもうひとりの友人に興味を示したジャンネットと笑い合いながら、プリンセスの背中をウロコを撫ぜる。
ひんやりとしたそれはとても心地が良い。

「シランにも伝えなければいけないな」

「まあ詳しく分かっても遅くないだろ、いつまでも隠し通せることではない」

「ああ、そうだな」

窓の外はどんよりと歪んだ曇り空だった。
prev | next

back

Secret Story | text
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -