本能
制服や教科書などの説明を終えたあと、コマクサを除いた3人は食堂へ来ていた。
授業中の今は生徒は出歩いていないため、まだ紹介されていないリリーが歩いていても問題がない。
「リリー、食堂の料理もとても美味しいからたくさんおたべ」
ルキーノのニコニコした顔にダリオが呆れたように苦笑をする。
しかし、ダリオも目を輝かせたように見えるリリーに口角が緩んだ。
「なんでも食べていいの?」
「いいよ、いいよ」
リリーがこれ、これと指差したものを注文し、お茶を飲みながら待つ。
制服も着心地の悪さや違和感はないのか、リラックスしている様子が見られた。
ダリオはそんな様子のリリーに一息つく。
リリーの膝の上のオトメも気持ちよさそうに鼻をヒクヒクとさせている。
ヨウランが小さな形になり、ルキーノの肩に乗り左右に揺れた。
ラミたちの穏やかな雰囲気が心地よい。
「そういえば、ロジーは?」
「見回りに行かせている」
「ロジー、えらいね」
話している最中に運ばれてきた料理にリリーの視線が移る。
どうぞ、とすすめると柔らかな頬が緩んだ。
「俺たちの担任がコマクサ先生でよかったね」
「ああ。リリーの個別授業はディセントラが行うことにしてあるし、学園生活は私たちでサポートできるだろう」
「あとはどうクレマチスやジャンネットから引き離すかだな」
「ジャンネットは学年が違うからいいとして…、問題はミハエルだね」
その言葉にダリオが眉をひそめた。
同クラスのミハエル・クレマチス。
ダリオやルキーノの母国であるリリウム国と敵対するデッセン国の第一王子。
母国から離れ、学園にいる現在もその関係はつきまとう。
「ミハエルって誰」
食事に集中していたリリーが空になったお皿の前で口元を拭きながら声を上げた。
もう食べ終わったのかと目を大きく開いたルキーノに苦笑しながら、リリーの皿を端に寄せる。
「昨日話した大きな国がふたつあるという話は覚えているか」
「うん、リリウム国とデッセン国?」
「そうだ。そのデッセン国の第一王子が、ミハエル・クレマチスという。爬虫類のような男で、デッセン国は権力を傘に周りの諸外国を食い物にするような国だ」
「難しいことはわからないけれど、それは、悪い国ということ?」
「…そう一括りにするのは難しいが、私も守るべき国がある。私からしてしまえば、悪い国ということになるな」
「そっか」
「俺はダリオのそういうところを誇りに思うよ」
ルキーノが感心したように言う言葉にリリーが小さく笑う。
もう一品運ばれてきて、キラキラと輝いた視線はもうダリオたちからは離れていた。
その時、リリーの膝で寝息を立てていたオトメがびくりと大きく体を震わせた。
怯えるように、何かから隠れるように身体をリリーの薄っぺらなお腹に埋もれるようになる。
「…オトメ?」
不安そうなその様子にリリーも持っていたスプーンを置き、オトメの背中を摩った。
リリーの身体も震え、体温が下がっていくような感覚を味わう。
ルキーノより先に変化に気づいたダリオはリリーへ視線を移した。
「リリー、どうした」
「なんだか怖いの」
「…ルキーノ」
「ヨウラン、探しておいで」
元の大きさに戻りながら飛び立ったヨウランから視線を離し、ルキーノはリリーを落ち着かせるように笑みを浮かべた。
それからスプーンをとって、リリーの目の前に運ばれた料理を一口掬って、口元に運ぶ。
「ん…」
「おいしい?」
「おいしい…」
ダリオのリリーよりも大きな手がリリーの背中を撫でた。
膝の上のオトメもふたりの雰囲気に落ち着いてきたのか、震えは止まっている。
スプーンを手渡して、食事に意識が持っていかれるように促した。
大きな羽音が聞こえてきて、視線をずらす。
ヨウランとともにロジーも戻ってきた。
「ミハエルのラミが食堂のそばまできていたようだね」
「まあ、私とお前が抜けていたらなにか起こったのか勘ぐる者もいるだろう」
「そうだね。まあ、どちらにせよ、近いうちにはクラスにはいるから」
ルキーノがため息をつきながらお茶を飲む。
同じようにダリオも戻ってきたロジーの頭を撫でていると、リリーがふうと一息ついた。
「…ダリオ、ルキーノも、疲れてる」
きょとんとあどけない瞳に、ルキーノが笑みを浮かべた。
癒されたよ、とつぶやいて、リリーの頬をなでた。
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