制服と居場所
警備監視委員会棟、略称を警監棟の最上階にある委員長室にリリー、ダリオ、ルキーノの3人はいた。
リリーが転入という形でダリオやルキーノと同じSクラスに入るにはまだ状況が不安定であるため、ここである程度の知識で埋めなければいけない。
コマクサから今朝連絡が来て、リリーの食事を終えてから移動してきた。
リリーはどこかウトウトとしていて、その様子にルキーノの頬が緩んでいて、ダリオも釣られて小さく笑ってしまう。

「リリー、とてもねむそうだね」

「ご飯食べると、眠くなっちゃうみたい」

「赤ん坊のようだ」

リリーの向かいのソファーに座っているダリオが思わずつぶやくと、リリーは目をぱちりと大きく開いた。
それから少し不服だったのか、唇を尖らせる。

「赤ん坊じゃない」

「怒らせてしまったか、それはすまない」

小さく笑っているダリオにリリーの唇はますます尖った。
ルキーノの入れたお茶を飲み、うんと背伸びをする。
ノックの音が聞こえて来て、大きな重厚な扉がぎいっと音を立てて開いた。

「コマクサ」

入ってきたコマクサに、リリーの表情がかすかにふわりと明るくなった。
その表情にダリオとルキーノは息を呑む。
今、リリーが一番落ち着く相手は、コマクサなのだ。
その事実に、胸の奥に小さな重りが生まれたような気がした。

「リリー、昨日ぶりだ」

リリーの隣にコマクサが腰を下ろす。
大きな大人の手が柔らかな髪を撫でた。
それが心地よかったのか、細い膝の上で休んでいたオトメがヒクヒクと鼻先を動かす。
リリーはそんなオトメに気が移り、柔らかな毛並みにまた視線を移す。

「ルベルム、そのような表情をするな」

「…、私もひとりの男だ」

「お前にも青いところがあるんだな」

小さな声で話す内容をリリーは気にしない。
ルキーノも複雑そうな表情でダリオとコマクサを交互に見た。

「リリー、よく眠れたか」

「うん、ダリオからベッド借りたから…」

「そうか、それなら良かった」

そう言いながら、昨日委員長室に運んでもらった箱から制服などの道具を一つずつ取り出す。
リリーはオトメから視線を離し、机の上を見た。
ダリオの真っ白な美しい制服とは違い、かすかにクリーム色の柔らかな色合いの制服。

「これは?」

「君の制服と教材だ」

「…、文字、読める」

「そうか、かの神子は文字も読めない方が多かったからな」

「文字が読めるなら、あとは勉強についていくだけだね」

嬉しそうな様子のルキーノに大きく頷く。
パラパラと教科書を開いてみると、ある程度文字が読めても、内容を理解できるかと言ったら難しい気がした。
眉間にしわを寄せていたようで、コマクサの小さな笑い声が聞こえてくる。

「分からなければ、ダリオやルキーノに聞くといい。彼らはとても頭がいいから」

「おねがいします」

ぺこりと頭を下げたリリーに、ダリオとルキーノは思わず笑った。


「さあ、リリー。制服に着替えてみて」

ルキーノに促されて、その場で服を脱ごうとする。
着ていたものを脱ごうとしたら、驚いたルキーノに止められた。

「ちょ、だ、だ、ダメだよ、リリー、男の前で簡単に肌を見せたらっ」

「…僕も男なのだけど」

「うーんとっ、ね、ほら、向こうで着替えてきてっ」

ルキーノの指差した方へ渋々と向かった。
コマクサとダリオも同じように頷いていて、首をかしげなら委員長室と隣接した部屋に入る。
そこは寝室になっていて、こんなところにも眠る場所があるのかと感心した。
ベッドに制服を置いて、上に来ていたYシャツを脱ぐ。
白い肌を白いYシャツが滑り、床に落ちた。
どこか違和感を感じる自身の身体。
けして自分のことで覚えていることはないけれど、なんだか下腹部がジクジクと熱を帯びているような感じがした。
真新しいYシャツを来て、クリーム色のブレザーを着込む。
下に履いていた黒のスラックスを脱ぎ捨て、新たなブレザーと同じ色のスラックスに足を通す。
リリーにぴったりの制服は、着心地が良かった。
ダリオの真っ白な制服とは着心地はどう違うのだろうか。
そんなことを思いながら、リリーはひとつ息を吐いた。

元の世界がどんなところだったのかわからないから、帰りたいとも思えない。
今は自身が置かれた居場所を大事にしたい。
この制服は、リリーに「ここにいてもいい」と、居場所を与えてくれているような気がした。

制服を身に纏ってから、寝室を出た。
息を呑むような音が聞こえてから顔を上げれば、ダリオがどこか惚けたような表情をしていた。

「ほかのSクラスと同じ制服なのに、リリーが着るとまた違うね」

ルキーノに褒められているのか、そうでないのかわからない反応にリリーは首をかしげた。
よく似合っている、とコマクサに褒められる。
元の位置に座れば、3人の視線が気になって少しだけ居心地が悪い。
ダリオの咳払いで、コマクサが思い出したかのように、ああ、と声を上げた。

「リリー、君がこの世界で生きていくには、誰かに頼らなければならない。君は守られなきゃいけない。君を狙うたくさんのものから」

「…うん」

「君は、これから苦労をたくさんしなければいけない。ダリオとルキーノ、それに私もだが、君を命をかけてでも守るから」

「…僕は、あなたたちにとっても必要な存在なの?」

リリーの言葉にコマクサは頷いた。
黙っているルキーノも同じように頷く。
最後にダリオに視線を移せば、真剣なその薄紅色の瞳に目を奪われた。

「私がお前を守る。命をかけて」

短調な低い声が心地よくて小さく頷いた。
チョコレートの甘くて魅力的な香りが鼻をくすぐる。
ダリオの香りは、リリーの心を安心させた。

ルベルム end
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