昔話と真実
コマクサに抱きついたまま、泣き疲れて眠ってしまったリリー。
コマクサは彼をそのまま抱き上げ、3人は百合寮へ向かった。
警備監視委員会棟を出て、すぐに百合寮へ向かった。
百合寮はダリオやルキーノの母国であるリリウム国、コマクサの出身国のケシ国、ふたつの国から入学した生徒達のための寮になる。
そのため、百合寮の生徒の多くが所属する警備監視委員会棟と近くに併設されていた。
今現在は授業中であるため、一般生徒はいない。


「…リリー、よく眠っているな」

「疲れたのだろう。目を覚ましたら知らない世界で、元いた場所も何もかもわからない。想像できないくらい、恐ろしい世界だろうな。リリーにとって、私たちの世界は」

「コマクサ先生、リリーは馴染めるのかな」

「ああ、それは君たち次第だろう」

リリーを眺めながら歩いていたダリオは、コマクサの言葉にまっすぐに前を向いた。
この自分よりもうんと小さい存在を、守りたいと本能が叫んでいる。
ダリオも、ルキーノも、リリーのことを詳しくなんてしらない。
それはコマクサだって。
それでも、ふたりはリリーを守りたいと思った。


「ついたな、俺が変わろう」

「ああ、ここには私は入れないからな。では、私の親戚を任せたぞ」

「ああ」

ダリオはリリーをコマクサから預かり抱きかかえる。
小さな身体はとても軽い。
コマクサは最後にリリーの髪を撫でて、その場を離れていった。
ふたりは一般クラス用の入り口とは違う位置にある入り口から、寮内に入りシークレットフロア行きのエレベーターに乗り込む。


「ドアを開けてくれ」

「了解、まだベッドは運ばれていないだろうし、どうする?」

「俺の部屋に連れて行く。俺はソファーで寝るから」

「え、俺の部屋でいいよ。ダリオがソファーで寝たら俺が親父に怒られるだろ」

「…、黙ってればバレないだろう。お前は変なところで律儀だよな」

鼻で笑いながらそういえば、ルキーノが唸った。
それから、リリーを自分の部屋に運び込み、ブレザーを脱がしネクタイを外し寝かせる。
リリーは布団に入ると小さく丸くなった。
小さな寝息を聞きながら、ルキーノが微笑む。


「かわいーなー」

「…」

「明日はもっとお話ししようね」

そう言って髪を撫でたルキーノに、ダリオも小さく笑った。
同じようにリリーの髪を撫で、ふたりは部屋を出る。


「ダリオが俺の部屋で寝て、俺がソファーで寝ればいいのでは?」

「お前、馬鹿だな」

ルキーノを一瞥したダリオはさっさと風呂場に向かう。
そんなダリオにルキーノは首をかしげた。

風呂から上がったダリオは、ソファーにブランケットを置いた。
共有ルームの本棚の中から何冊か取り出して机に乗せる。
香りの良い、バラの紅茶を入れてから、ソファーに腰を下ろし本を開いた。


「…伝説の神子、か」

本を開いてタイトルを読み上げる。
暇つぶしにでも、と実家から持ってきた本の中に、伝説の神子について記された本が何冊かあった。
伝説の神子が目の前に現れて、そのことを思い出し本を読み始める。


「…まさか、俺の元に来るとは、な」

リリーの抗えない魅力や、愛おしくてたまらない気持ちを思えば、今までは昔話だと思っていた話が事実であることを実感できた。
この先の未来を想像して思わず笑みがこぼれた。


「本当に、俺はツイてるな」

この世界の者なら必ず一冊持っている本の背表紙に口付けて、ダリオは横たわった。
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