お出かけ
「いち、起きて。今日お出かけするって約束したじゃん」

ぐっすり眠って居る壱琉の肩を揺すると、壱琉が寝返りをうち壁の方を向く。
広い背中がまだ眠たいと物語っていて、むくは少しふてくされた気持ちになった。
むくもごろんと横になって、壱琉の背中にしがみつく。
広い背中はむくが成長してもなかなか、その背中の大きさは変わらなかった。


「もー。しょうがないなー」

そうして背中に噛み付いたりしても起きる気配のない壱琉に、むくも目を瞑る。
暖かい背中が心地よくて、寝つきの悪くてもゆっくり睡魔に飲み込まれていった。



「ん…」

「起きたか」

「あ…、寝てた」

「珍しいな、俺より遅いの」

いつの間にか壱琉に抱きしめられる形で眠っていたむくは、眠い目をこする。
しっかり目が覚めたのか、壱琉はむくの寝癖のついた髪を撫でた。
優しい手が何度も撫でてくれるが、むくはムスリとしながら壱琉のお腹をパンチする。


「なんだよ」

「むく起きたのに。起きて起こしたのに、起きないからまた寝たのっ。だからむくいちより先に起きてたんだからね」

「起きて早々、鼻まげてる」

「もーっ、早くからお出かけしよって言ったの壱琉じゃんっ」

「ごめんごめん。ほら、機嫌なおして着替えて出かけるか。まだ10時だし」

「んーっ」

起き上がったむくは壱琉が伸ばしてきた指先を噛む。
甘噛みされた壱琉は笑いながらむくの頭を撫でた。
膝の上に乗ったむくはガジガジと壱琉の指を噛みがら、抱き上げられる。
ふわっとした感覚にすぐに首筋に抱きついた。


「俺の可愛い赤ちゃん、早く機嫌なおせよ」

「赤ちゃん扱いやめて」

「んー、ほら、おはようの挨拶」

「ん、おはよ、いち」

お互いの頬にキスを交わしてから、着替えるために離れる。
ムスっとしていたむくは気持ちがもとどおりになっていた。
これからどこに行くのだろうか、そう思うと楽しくなる。
すぐに着替え終えてから、顔を洗いふたりは並んで歯磨きをした。


「どこ行くの」

「買い物。なんか欲しいのあるか」

「ないー」

「じゃあ、本屋行くぞ。その前にどっかで朝飯食ってからだな」

「ん」

歯磨きを終えてからふたりは身支度を整えて、家を出る。
壱琉の愛車に乗り込んでマンションを出た。


「ねえ」

「何」

「海行きたい」

「海? まだ寒くないか」

「もうあったかいよ、きっと。だって桜散ってるもん」

「わかった。本屋は帰りに寄っても?」

「もちろん」

車の中で音楽を流す。
いつも聞く音楽にむくも小さく口ずさんだ。
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