おやすみ
お風呂から上がって、ふたりはもう一度リビングに戻る。
ソファーに座り、壱琉の入れたりんごジュースをふたりで飲んだ。
ジュースを飲んでから並んで歯磨きをして、寝室に入る。
寝室の明かりを柔らかいものに変え、眠気に誘われるようにした。


「眠いね」

「すぐ寝れそうか?」

「んー、どうだろう。でも最近ずっと寝れてなかったから…」

ベッドに腰を下ろしたむくはうんと体を伸ばす。
両手をまっすぐに伸ばしていると目の前に立っていた壱琉がむくの両手をつかんで、立ち上がらせた。


「なに〜…」

「いやー、抱っこして寝付かせようと思って」

「もー、3歳じゃないんだよ。いち、ずっとむくのこと赤ちゃんみたいにするんだもん」

「いつまでも可愛い俺の赤ちゃんだな」

「何それ、バカなの?」

そう言いながらも壱琉に抱き上げられ、むくは小さく笑った。
広い寝室の中でぐるぐると抱きかかえられながら、今度は大きな声で笑う。
ぐるぐる回る壱琉も笑っていて、ふと心がぎゅっと締め付けられた。
うちにいるときと違う楽しさにむくは壱琉に抱きつく。


「笑うからやめて」

「楽しいからいいだろ」

「いいけど、ふふ、せっかくお風呂はいったのにあっつくなるよ」

「もう一回風呂入ればいいだろ」

回る足を止め、壱琉はむくを抱えたままベッドに戻る。
その腕の中でむくはあくびをした。
あくびをした様子を見て、ふたりはベッドに横になる。
抱きしめられたむくはもう一度あくびをして壱琉の胸に頬ずりをした。


「おやすみ、むく」

「おやすみ、いち」

布団をかぶって、目を瞑ると緩やかな眠気に襲われる。
その眠気の波に乗り、壱琉の香りを吸い込むとストンと眠りに落ちそうだ。
同じシャンプーを使っていても、違う香りがする。
それでもその香りが好きだから、いつもよりうんと落ち着いた。


「むく」

目をつむったむくの耳元に壱琉が軽く口付ける。
優しく髪が撫でるその手も心地よい。
声があんまりにも愛おしそうに呼ぶから、ムズムズとする気持ちが何かを叫びだしてしまいそうになった。
何度も撫でる指先にウトウトし始めて、むくはもう一度あくびをしてから今度こそ眠りに落ちた。
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