デート
壱琉の車に乗り込み、マンションをでた。
黒い車内は暑くなっていて、エアコンを効かせる。
冷たい風が車の中を巡り、丁度良くなるまでぼんやり窓の外を眺める。
駐車場から見える道路はギラギラと照り返しを見せていた。
ゆらゆら揺れる熱気に、どこか胸が高鳴る。
久しぶりの遠出、何も気にしなくていい、解放されたような気分だ。

「そろそろ行くか」

壱琉の言葉に頷けば、車が走り出す。
窓の外はキラキラと輝いていた。
走り出した車内に、聞き慣れた音楽が流れる。

「ね、窓開けていい?」

「ああ」

窓を開けると夏の風が入り込んだ。
髪が風に吹かれて、頬に当たって笑う。

「むく、窓開けすぎるな」

「はーい、いい天気だね」

「そうだな」

ニコニコ笑うむくに、壱琉が小さく笑った。
その声にむくは、少しだけ恥ずかしさを覚えながら窓を少し閉めた。
熱い風が入り込んでいて、冷えた車内で当たるその風は心地よい。

「やっぱり外暑いね」

「そうだな。夏って感じだ」

「うん。むう、夏好きだよ」

「俺もだ」

前にもしたような会話をしながら、車を走らせる。
まっすぐ前を見た壱琉の横顔を時々眺めた。

「ね、いち」

「んー?」

「ドライブたのしいね」

「そうだな」

壱琉の声はとても優しくて、甘い。
むくもその甘さに気づいていて、頬が暑くなるのを感じた。

「んー、ふふ」

「たのしそうだ」

「たのしいよ。こんなゆっくり、羽伸ばせるの、久しぶりな気がするもん」

「そうだな。たまには気晴らしするのもいい」

うーんと狭い車内で背伸びをして笑う。
信号で停車した車の中、壱琉がこっちを向いた。
大きな手のひらが近づいてきて、くしゃくしゃと髪を撫でる。
それが気持ちよくて、目を細めた。

「喜んでくれて嬉しいよ」

「ん」

信号が変わって車が走りだす。
海に向かう車の中、小さな声で鼻歌を歌った。

たどり着いた海は、人が少ない海岸だった。
車を止めて降りれば、むくが目を細める。
その仕草がどこか儚くて、壱琉は眩しく感じた。

「綺麗だな」

「うん。キラキラしてる…」

「入ってきてもいいぞ。タオル持ってきたし」

「足だけにする。いちも入ろ」

「ああ」

むくの小さな手が重なって、引っ張る。
可愛い子どもの手に引かれて、海へ向かった。
サンダルを抜いで、走り出すむくが輝いて見える。

「むく、可愛いな」

思わず漏れた壱琉の声。
むくが振り返って笑った。

「何言ってるの」

海の中にパシャンと入り込んだ足。
砂浜よりもぬるい海。
むくの手のひらの方が熱かった。

「気持ちいね」

「ああ、気持ちいな」

むくの笑顔が輝いていて、連れてきてよかったと思う。
海のぬるさに心までぬるくなって、心地よい。
繋いだ手も、熱くて、頭の中も茹だりそうだ。

「むく」

「んー」

「俺の可愛い赤ちゃん、好きだよ」

「…ん」

小さな柔らかな返事が聞こえてきて、壱琉は笑った。
今はそれでいい。
壱琉の小さな声が耳に入った。
むくも同じようように笑う。
ふざけたように囁く愛には、深い愛が隠れている。

「海、綺麗だねえ」

「そうだな」

心地よい風が頬を撫でた。
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