おはよう
お日様が頬を照らして、むくは目を覚ました。
胸の上の重みに手探りで探ってみる。
太い腕に指先が触れ、そっと撫でた。


「ん…、重いよ」

壱琉の腕を動かそうとするも、動かない。
隣から聞こえる幸せそうな寝息に、無理に動かすのをやめる。
それから、寝返りを打って、壱琉の胸に顔を埋めた。


「ん〜…、いち」

タバコの匂いがしない壱琉の香り。
心地の良いその香りを思い切り吸い込んでから、ぎゅっと抱きついた。


「早く高校生になりたいよ…」

そう呟けば、壱琉の腕がぎゅっとむくを抱きしめてくれた。
その腕のかすかな力が、嬉しい。
この時間がずっと続けばいいのに。


「…むく…? 起きてるか…?」

「んーん、寝てる」

「そうか…、俺ももう一眠りしようかな」

「…そうしよ…、今日はずっと、このままこうしてようよ」

「お前がそれでいいなら、俺は構わないよ…」

ひたいにそっとキスをされる。
優しいキスが気持ちよくてむくは小さく笑った。
唇は頬に触れて、今度は鼻先に触れる。
見つめ合っていれば、自然と目を瞑った。
唇が触れ合う。
そう思った瞬間、チャイムの音が響いた。


「…こんな休みに、誰だ」

そう言ってベッドから降りた壱琉に、むくの心臓はドクンドクンと大きな音を立てる。
部屋を出て行った壱琉に少しだけホッとした。
高鳴った心臓はおさまらず、布団に包まる。


「…ッ、き、キス、するかと、おもった…っ」

ぎゅっと小さく丸まって、火照った身体を抱きしめる。
どうしようもない恥ずかしさと、ときめきに襲われた。


「…ううう」

呻き声を上げながら、枕元に置いた携帯を開く。
携帯には汰絽からの着信が入っていた。


「…あれ?」

着信はまだむくが寝ている時のものだった。
急いで身体を起こして電話をかける。
なんどもかけるが、汰絽は電話に出なかった。


「何、だろ、いやな予感が…」

むくはベッドから降りて、部屋を出た。
不安が胸を込み上げてきて、壱琉の姿を見る。
壱琉は玄関にいて、むくはドアを少し開けて誰か確認した。
そこにいたのは作楽で、むくの気配を感じたのか壱琉が振り返る。


「どうした、こっちこい」

「ん」

壱琉のそばにいき、隣にたつ。
作楽が微笑んでくれて、むくも笑顔を浮かべる。


「作楽ちゃん、どうしたの」

「仕事の資料をお持ちしただけですよ」

「そっか」

「むくが遊びにきているなら教えていただけても良いのに」

壱琉にぼそりと小言をいう作楽に、むくは小さく笑った。
今度は作楽に挨拶をしてから、壱琉をちらりとみる。
少しむすっとしている壱琉の手の甲を撫でた。


「むく、また今度遊んでくださいね」

「え、寄っていかないの」

「ええ、今日は少し予定があるので」

「…そっか」

「ふふ、また。それでは東條さん、お願いします」

そう行って手を振って帰る作楽に、むくも手を振る。
鍵を閉めた壱琉に後ろから抱きしめられた。
それから、つむじにキスをされて身をすくめる。


「どうした? 出てきて」

「ん、たぁちゃんから、朝電話きてて、掛け直しても出ないの。なんか合ったのかなって」

「…一回家行ってみるか?」

「うん、なんか、いやな予感がするから…」

「着替えておいで」

頬にそっとキスをされて、むくは寝室へ戻った。
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