スカスカ、うとうと
「アヒルさん入れるか」
「ん、入れる。入浴剤入れよ」
「何入れるんだ?」
「スカスカするやつ〜」
入浴剤を入れて、アヒルさんを受け取って入れる。
先に服を脱いでお風呂場に入って、イスに座れば壱琉が後から入ってきてむくの髪にキスをした。
壱琉の大きな手のひらがむくの目の前のシャンプーボトルからシャンプーをだす。
それからモコモコとした泡を作り、髪の毛を洗ってくれる。
とても気持ちが良くて、思わず幸せのため息がこぼれた。
会えなかった時間がむくを素直に、甘えたにする。
「痒いとこはあるか」
「ない〜、でももっとワシャワシャして」
「ああ」
クスクスと笑いながら壱琉がワシャワシャと髪を洗ってくれる。
むくも小さな声で笑った。
髪を流すぞ、と声をかけられて、シャワーで髪を流す。
なくなった泡に、軽く水を払えば、すっきりとした。
そのあとは身体を洗ってもらい、今度はむくが壱琉の髪を洗う。
「気持ちい?」
「ああ、気持ちいいよ」
「ふふ、ね、いち」
「なんだ」
気持ち良さそうに目を瞑っている壱琉の顔を見つめる。
壱琉の頬や顎は、むくと違って肉がなくシャープだ。
大人の違いを見せられた様で、少しさみしくなる。
「高校生になったら、もっと遊びにきてもいい?」
「…どうした急に」
「ううん、気になっただけ」
「もちろん、遊びに来ていいさ。少し大人になるんだからな。まあ、風斗さんや汰絽たちがいいって言ったらだけどな」
「うんっ。髪洗うね」
声が弾む。
壱琉ともっと一緒にいたい。
この先も、ずっと。
この人以上の人なんていないんだ。
むくの思い出の中の全てに壱琉は存在している。
この先を考えても、むくの想像の中には壱琉しかいなかった。
髪も身体も洗い終えたふたりは湯船に浸かった。
スカスカする入浴剤は気持ちよくて、上がった後もジメッとした暑さの中ですっきりして過ごせそうだ。
「久々に一緒にねれるね」
壱琉の腕の中、うとうとしながらそう呟けば、壱琉が小さく笑った。
それからむくの柔らかな猫っ毛を何度も撫でる。
その手のひらが優しくて、むくは何度も瞬きをした。
「幸せ、だな」
壱琉のこぼれた言葉が聞こえて、むくは嬉しくなった。
むくも幸せだよ。
そう伝える前に、壱琉に抱きしめられた。
「…高校生になったら、俺…」
壱琉の肌の心地よさに、最後まで聞き取れず、むくは眠ってしまった。
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