甘やかして
チャイムがなって、ピザを受け取る。
部屋に戻ると、壱琉が問題集をソファーに乗せた。


「ピザ食べたら、また見るわ」

「ん。まだ終わらない?」

「あぁ。よく頑張ったな」

「うん。…終わったら、お風呂一緒にはいろ」

「…あ、あぁ」

「何」

「お前から一緒に入ろうって言われるの久々な気がして、驚いた」

素直じゃない言葉が口からこぼれそうになったのをぐっと抑える。
久々に会うのに、そんな言葉を出すのは勿体無い。
壱琉から顔を背けて、いただきますと小さく呟いた。
嬉しそうに笑う声が聞こえて、素直じゃない言葉をこぼさなくてよかったと思う。


「むく、好きだよ」

不意にそう囁かれて、体がぎゅっと熱くなった。
切なさが身体を駆け巡る。
同じように、好きだよ、と伝えたい。


「…ん」

ぎゅっと思いを噛み締めて、小さく答える。
その返事が聞こえたのか、壱琉はもう一度優しく笑った。


「いち」

「ん?」

「…、早く、おふろはいろうね」

「…あぁ、わかったよ。俺の可愛い赤ちゃん」

その言葉がとても嬉しくて、それでいて切なかった。
口の中で、ジャンクフードの味が広がって、むくはぐっと胸が締め付けられる。
伝えてしまえたら、どんなに楽になるのだろうか。
そう思えば、切なくて、恋しくて。
伝えたら、どうなるのだろうか。
この関係は、どこへ向かっていくのだろうか。


「むく、どうした」

「え…?」

「何か、考え込んでいるから」

「…んーん、ピザ、久しぶりに食べたから美味しいなって思って」

「そうか」

そう言って笑った壱琉が大人で、切なさが増した。
ピザを食べ終わって、箱を捨ててから、切なさを吹き飛ばすようにうんと身体を伸ばす。
壱琉はコーヒーを飲んでから、キッチンへゴミを片付けてくると立ち上がった。
その後ろをひよこの様に追いかけて、キッチンで後片付けをする壱琉の背中に抱きつく。
大きな背中に頬をすり寄せる。
心臓が心地よいくらいに音を立てて動き、幸せな気持ちになった。


「むく?」

「んー。寒いの」

「冷房緩めるか」

「んーん」

壱琉のお腹あたりで組んだ腕にぎゅっと力を入れる。
笑う壱琉の声が優しくて、むくも小さな声で笑った。
手を洗った壱琉がむくの腕を撫で、大きなてのひらがむくの手の甲を包んだ。
それからむくの指の隙間に太くてゴツゴツした指が入り込んできて、ぎゅっと握った。


「手、冷たい」

「洗い物したからな」

「お風呂、はいろ」

「今日は甘えん坊だな」

「うん」

Tシャツの背中にそっとキスをした。
壱琉が嬉しそうに笑うのが聞こえて、むくは額を背中にグリグリと押し付ける。


「早く〜」

「はいはい、今終わったから」

「いち、お風呂うれし?」

「嬉しいよ」

背中にしがみついたまま、お風呂に向かって歩く。
歩きづらかったけど、楽しくてたまらない。
お風呂場のドアを開けた壱琉が、むくの組んでいた手を解いて振り返った。


「はい、服脱いで」

「ん」

Tシャツを脱がされて、むくは小さく笑った。
それから、壱琉のTシャツの裾を持ってうんと持ち上げる。
壱琉の頭のところまで届いても脱がせることはできなくて背伸びをしていると、壱琉が屈んでくれてようやく脱がせることができた。
Tシャツを脱いだ壱琉が笑っていて、むくも思わず笑った。

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