約束守ってね
壱琉の作ってくれた問題集を解き終え、メールをしたら金曜日に迎えに行くと返信が来た。
三連休だし、日曜の夜までお泊まりしたら?
汰絽にそう言われ大きく頷き、ようやくやって来た金曜日。


「ごめん、先帰るね」

リュックを背負って急いで教室を出て、近くのコンビニへ向かう。
階段を駆け下りる時も、鼻歌が溢れた。
玄関で靴を履き替えて、走りながらリュックから携帯を取り出す。
校門を出てから携帯をひらけば壱琉からちょうど電話がかかって来た。


「今、学校出たから、待ってて」

『急いで転ぶなよ』

「子ども扱いしないでよ」

そう言いながら走れば、すぐにコンビニが見えて来た。
壱琉の車が目に入り、近づいて運転席の窓をノックする。
携帯を片手に手帳を開いていた壱琉は手帳を閉じてすぐに車から降りて来た。


「おかえり」

低くて、甘くて…とても優しい声がおかえりの挨拶をくれた。
いつものキスはなくて、その心地よさに溺れてしまいそうだ。


「ん、ただいま」

「何か買うか」

「ううん、早く、お家行きたい」

抱きしめてもらいたい。
おかえり、ただいまのキスをしたい。
少し会えなかっただけで、こんなにも恋しくなる。
このまま気持ちを伝えてしまいたい。
そっと膨れた思いを飲み込んで、視線をそらす。
壱流がすぐに助手席側に回ってドアを開けた。


「どうぞ」

「ありがと」

すぐに車に乗り込む。
エンジンをかけて、車を走らせれば涼しい風が頬を撫でた。
静かな車の中、むくの大好きな歌が流れていた。


「夕飯、どうしたい」

「…お家でゆっくりしたい」

「ピザでも取るか」

「うん」

車がようやく家について、壱琉が先に降りる。
それから助手席のドアを開けてもらい、車から降りた。
タバコの香りがして、たまらない気持ちになる。
少し足早に歩き、玄関ホールを通った。
エレベーターに乗り込み、壱琉の部屋に向かう。
鍵を開けてもらって家に入った。


「おかえり」

「ただいま」

もう一度挨拶を交わして、頬に口付ける。
壱琉の少しカサついた唇が頬を撫でた。


「…ん」

ぎゅっと壱琉に抱きつけば、すぐに抱きしめ返してくれた。
玄関は暑く、抱き上げられて部屋の中に連れて行かれる。
クーラーをセットしていたのか、部屋の中は涼しい。
ぎゅうぎゅうに抱きしめられた体は、お互いの体温で熱かった。
ソファーに下ろしてもらい、ふたりはもう一度挨拶のキスを交わす。


「お茶飲むか」

「うん」

「ちょっと待ってな」

そう言った壱琉はキッチンへ行きお茶を入れて戻ってくる。
すぐに隣に座ってテレビをつけた。
壱琉の手をとって、指を折り曲げたりして遊んだ。


「学校、どうだった」

「んー、疲れた」

「そうか」

「でも、いちのくれた問題集やったからか、授業が前よりわかりやすかった」

「それなら良かった。丸つけするから、貸しな」

「ん」

カバンの中から問題集を取り出して、壱琉に渡す。
それから赤ペンを渡してから、壱琉の膝に足を乗せた。
ソファーに寝転がって、携帯を開く。
SNSを眺めながら、壱琉が丸つけしていく音を聞いた。
時折背中をソファーに預け、スラックスをまくりあらわになった脛を指先でくすぐる。
そのくすぐったさに笑いながら足を動かすと、壱琉がまた丸つけに集中した。


「むく、ピザ好きなの頼みな」

「うん」

携帯でメニューを開いて、メモを取ってから電話をかけてピザを頼む。
壱琉が丸つけをする姿を見つめて、小さく笑った。


「終わったら、約束守ってね」

「…ん? なんか言ったか」

「んーん。なんでもないよ」

早く丸つけ終わらないかな、と手遊びを始めた。
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