どっちにしようか
「今日ゆうちゃん、お母さんと一緒に来るってー」

「そうなんだね。ご挨拶しないと。そういえば、お父さんが一緒に来たがってたよ」

「お父さん最近忙しいもんね。張り込み?」

「そうだねぇ。早くお仕事終わればいいね」

「うん」

「行こっか」

セミフォーマルな格好をした汰絽と一緒に身だしなみを整えてから家を出た。
今日は春風高校のオープンスクールで、汰絽と一緒に参加する予定だ。
風太も今日は仕事でふたりで出かけることになった。


「春風は徒歩で行ける距離だから楽だね」

「そうだね。東方は電車乗らないといけないもんね」

「うん。この前は壱流に連れてってもらったから楽だったけど、電車乗ったことないからちょっと怖いかも」

むくの言葉に微笑んだ汰絽をみて笑う。
受験生なんだな、と少しずつ気持ちが変わって来た。
壱流の言葉を思い出して、しっかりしないと思う。

歩いていると春風高校の校門が見えて来て、むくは心臓がとくとくと動き出すのを感じた。
桜の木がたくさん並んでいて、春になるときっと綺麗に咲くのだろう。


「ふふ」

隣から汰絽の小さく笑う声が聞こえて来た。
そっと顔を覗き込めば、嬉しそうに頬を染めて笑う汰絽がいる。


「どうしたの」

「ううん。…風太さんと出会った場所だったから、少し懐かしくなっただけ」

「…ここで風太と出会ったの?」

「そうだよ。一年生の春にね、ここで」

懐かしそうに、それでいて愛おしい思い出を思い浮かべるような表情の汰絽にむくは胸が締め付けられた。
大好きな人たちのきっかけの場所なんだ。
そう思うと、とても素敵な場所に思える。


「行こっか。…あ、ほら、ゆうちゃんと結子さんもいるよ」

「ほんとだ。早く行こ」

「うん。むく」

優しく笑った汰絽にむくも笑みを浮かべた。



『どうだった、春風は』

「うん、いいところだったよ」

『そうか。春風は、いろんなことが学べるからな』

「そんな感じだった」

『どっちにするか、決められそうか』

「ふふ、せっかちさんだね、壱流」

お家に帰って、みんなでご飯を食べてあったかいお風呂に入った。
夏場でもお風呂にちゃんと浸かるのが春野家の家訓。
タオルケットをかけベッドに座って背中を壁を預ければ、壱流の声に集中できる。
優しい声が耳をくすぐるのが心地よい。


「ね、もしむくが東方に行くことになったら、いち、嬉し?」

『ああ、嬉しいよ』

「もっと一緒にいれるかな…」

聞こえないくらいの小さな声で囁けば、電話先でくしゃみの声が聞こえた。
そのくしゃみの声で少しドキドキとしていた胸が治る。


「風邪ひいたの?」

『そうみたいだ』

「熱はない? 大丈夫?」

『熱は上がってないし、ただの鼻風邪だから、心配するな』

「そう…? 鼻風邪でも気をつけてね」

『ああ、ありがとな』

壱流の笑い声が聞こえて、むくも小さく笑う。
今日は少し緊張していて、疲れが溜まったみたいだ。
電話をしていると少しずつ眠たくなってくる。


『そろそろ寝るか』

「うん…、ちょうど眠たくなって来た。おやすみ、壱流」

『おやすみ、俺のかわいい赤ちゃん』

優しくて甘い声が耳くすぐって、むくは電話を切った。
もう一度、心の中でおやすみと伝え、電気を消した。
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