どうだった
「ただいまー」

「お邪魔します」

リビングの方からおかえりという優しい声が聞こえてきて、むくは笑みを浮かべた。
壱流の手を引いてリビングに入ると、風太と汰絽がひらひらと手を振ってる。


「おかえりなさい、ふたりとも」

もう一度挨拶をすると、汰絽がすぐにコーヒーを持ってきてくれる。
ソファーに腰をかけてホッと一息ついてから、むくはカバンの中から学校の書類を取り出した。
汰絽と風太に渡してから、隣に座った壱流に笑いかける。


「楽しかった?」

「うん、楽しかった」

「そっか、それは良かった」

出されたコーヒーを飲みながら風太がパンフレットを見る。
隣に座った汰絽もパンフレットを眺めて、それからむくをみて笑う。


「春風も行ってみないとわからないかもしれないけど、東方の校風の方がむくにあってるかもしれないね」

「確かになあ。ひとりひとりの個性を重視する学校だからな」

「それに比べて春風はどちらかと言ったら全体重視ですからね」

汰絽と風太がパンフレットを眺めながら、話すのを聞いてむくは壱流の方を見た。
壱流もパンフレットを見ながら、それからむくに笑いかける。


「東方に来たら、俺の後輩だな」

「…ん」

嬉しそうに笑う壱流に、むくも頬が緩むのを感じた。
壱流の膝にそっと自分の膝を触れ合わせてから、身を乗り出してパンフレットを見る。


「来週は春風行こうな。俺と一緒でもいいか」

「たぁちゃんは?」

「汰絽は仕事。俺じゃダメか、むく…」

「まさかー。3人でいけたらなって思っただけ。風太が来てくれれば安心だよ」

「そうかそうか。俺は可愛い末っ子ちゃんが俺では満足しないかと…」

「なにそれー」

クスクス笑うむくと汰絽に風太も同じように笑った。
一緒に笑っていると、隣に座った壱流がむくの背中を撫でた。
なにどうしたの、と壱流の方を見ると、壱流が小さく笑う。
なにもないよと言ってから、そろそろ帰ると立ち上がった。


「コーヒーうまかったありがとう。今度はうちにでも」

「おう。今日はむくのことありがとな」

「ああ、いつでもどうぞ」

「はは、ありがとな」

「む、むく見送ってくる」

壱流が立ち上がったのを見て、むくも追いかける。
その様子を見て、風太と汰絽は笑った。



「いち…」

玄関のドアを握った壱流の手をそっと握る。
すぐに手を握り返されて、むくは頬が熱くなるのを感じた。


「あの、ね」

「ん?」

「いや、やっぱりなんでもない。忘れて」

「…気になるな」

「忘れて」

「…変なむくちゃんだな」

そう言って笑った壱流に、思わず気持ちをこぼしてしまいたくなった。
繋いだ手が少し汗ばんで、恥ずかしいと思う。
この気持ちに気づくまでは気にならなかったのに。


「次、いつ会える?」

「今はそんなに仕事が忙しくないから、いつでも。会うのはいいけど、そろそろ受験勉強に身を入れないとだな」

「…ん、うん、そう、だね…」

「春風行くにも東方行くにもしっかりやらないとだからな」

「ん、会っちゃダメ…?」

「ダメとは言ってない。しっかりやることして会いに来いって言ってるの」

「うん」

小さな声で返事をすると、壱流の大きな手のひらが向くの頬を撫でた。
それから、顎先をくすぐるように指先が動き、気持ち良さにとろけそうになる。
誤魔化されてるものわかるけれど、心地よくて抗えない。


「むく」

優しい声が耳をくすぐり、そっと目を瞑る。
大きな手が両頬を包み、額にキスを落とされた。


「ああ、早いけど、おやすみ。俺のかわいい赤ちゃん」

「ん、」

すぐにむくも壱流の顎先にキスを送ってから離れる。
ひらひらとてのひらを振って、帰って行く壱流の背中を見送った。
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