こっちはどお?
壱琉の部屋に来て、心地よいソファーに寝そべりながらぼんやりと高校のパンフレットを眺めていた。
包丁が野菜を切る音が聞こえてくる。
その音を聞いていると眠たくなって来て、思わず腕を枕にして眠ってしまいそうだ。
「むく、先に風呂入って来たらどうだ」
「んー…」
「一緒に入るか」
「ん、入る」
こくりとうなづいて眠りにつこうとすると、壱琉が包丁をおく音が聞こえた。
鍋の中に野菜が入れられる音がして、そんなふうに追いかけていると次第に返事も適当になってくる。
キッチンの方から笑う声が聞こえて来て、むくも小さく笑ってそれから眠りについた。
「むく、そろそろ起きな」
髪を撫でられ頬にキスをされ、むくは目を覚ました。
ゆっくりと起き上がると壱琉が微笑んでいる。
体が強張っている感じがしてうんと伸びると、壱琉に手を取られた。
そのままその手の甲にキスをされて、むくは笑う。
「ん、なに」
「何でもない、やっと起きたなって思って」
「そんなに寝てた?」
「一時間くらい。夕飯温めたから、ほら」
「お、起こしてくれればいいのに…」
「気持ちよさそうに寝てたからな」
壱琉にぎゅっと抱きしめられて、むくも同じように抱きしめ返す。
胸が締め付けられて、むくは壱琉の肩に額を埋めた。
そっと名前を呼べば、食べようか、と囁かれて頷く。
夕飯を食べ終わって、一緒にお風呂に入ってそれから。
むくは壱琉の部屋のベッドで、高校時代のアルバムを見せてもらった。
壱琉は作楽と一緒に写っている写真が多い。
幼い頃、記憶がまだぼんやりしている時の壱琉は確かこの制服を着ていた。
こうして写真で見ると、自分もこの制服の時の壱琉を知っていたいと思ってしまう。
少しだけ拗ねた気持ちになっていると、むく背中に重みを感じた。
「ん、いち、重い」
「そんなにそれ面白いか」
アルバムから視線をそらして壱琉を見れば、壱琉がふてくされたような表情をしている。
背中に乗っていたのはむくの腕よりもずっと大きくて重い腕で、そっと壱琉の方へ向きを変えた。
胸に顔を埋めて匂いを嗅げば、シャンプーと壱琉の香りが混じったいつものタバコの匂いとは違う匂いがする。
「タバコ吸わないの」
「今日はもう終わり」
「ふうん」
「吸って欲しいのか」
「んーん…」
この匂いはきっとむくにだけ許された匂いなんだろう。
そう思うとまた胸が締め付けられて、むくは壱琉に抱きついた。
うんとその匂いを嗅いで壱琉の腕枕でうとうとし始める。
「アルバムはもういいのか」
「ん…、また見せて」
「もう眠い?」
「眠い…」
「挨拶して」
壱琉の声に促されて、そっと壱琉の胸にキスをしておやすみと呟く。
すぐにつむじに返事が返って着て目を瞑った。
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