そばにいたいのも動機のひとつ?
「五時間目、自由時間でよかったね」

「そうだね。むく、相談した?」

「うん」

情報室のパソコンの前でふたりはぼんやりとパソコンを眺めていた。
進路希望調査と一緒に行きたい高校について調べる宿題が来週までに出さないといけない。
そのために、宿題も進めようと、ふたりは情報室にいた。
窓の外は梅雨真っ最中で、雨がざあざあと降っている。


「むく、たぁちゃんが行っていた学校か、いちの行ってた学校にしようかなって思ってる」

「奇遇だね、僕も。そこか、私立の男子校にしようかまよってる」

「そうなの?」

「うん。母さんに勧められた」

「ふうん…。それって桜花学園?」

「そうそう。まぁ、今もほとんど男子校みたいだから、雰囲気は変わらなくていいかなって思ってる」

結之が桜花学園について調べているのを見て、むくはそれを眺める。
桜花学園はむくの地域の中で唯一の私立の男子校だ。
中高一貫で系列の大学もあるため、大学にもエスカレーター式で上がれる。
むくの視野にはなかった学校だった。


「桜花学園って桜山の中の学校でしょ。全寮制だよね」

「うん。独り立ちするにはもってこいな学校だよね」

「そうだね…。むくは、桜花学園はいいかな…」

「どうして?」

高校を決める動機が、家から通えるものだった。
それから、壱琉のそばにいたいから、近くの学校がいいと考えていた。
結之と一緒の学校がいいと思っていたが、結之の中では桜花学園が一番気になっているようだ。


「むく、お家から通えて…、」

口に出して、その先を言ってもいいのか迷いが生じた。
この想いって簡単に口に出していいのだろうか。
むくの中で小さくて大きな迷いが今更、訪れてきた。
好きにならなきゃいけないのは女の人で、世間的には男の人を好きになるのがおかしいことは知っている。
それでも、兄たちのように幸せそうな姿も知っていた。
むくがこの気持ちをさらけ出すことで、兄もそんな風に見られて心無い中傷されることがあるかもしれない。
結之を信用していないわけではない。
けれども、結之が同性同士の恋愛に理解があるとも限らない。


「むくは壱琉さんと一緒にいたいから桜花学園は視野になかったんだね」

むくが口に出そうとした言葉が結之の口から聞こえた。
優しい声で納得したように聞こえて、むくは小さく頷く。
それから教室の中を見渡して、自分と結之しかいないことを確認した。


「この間、壱琉のことずっと無視してたときに、気づいたの。壱琉のこと、ずっと、ずっと好きだったって。たぁちゃんとか風太、みんなに対する好きと違って、特別な好きだって」

小さな声でそう話せば、初めて壱琉のことを好きだと口にしたような気がした。
口にすれば体が熱くなるのを感じて、頬に触れる。
触れた頬はとても熱くてきっと真っ赤になっているのだろう。
結之の方をまっすぐに見つめられなかった。
静かになった情報室の中、むくはちらりと結之を見る。
結之は嬉しそうに、それでいて優しく笑みを浮かべていた。


「やっと気づいたんだね。このまま気づかなかったらどうしようかと思ってた。壱琉さんかわいそうだなって」

「…っ、し、知ってたの」

「そりゃあね。3歳の時からずっと一緒にいるんだよ。むくのことは誰よりも知っている自信あるから」

「もう悩んで損したっ」

「悩んだの?」

「言っていいのかなって。だって、普通じゃないし」

「そうだね、普通じゃないもんね。僕たち」

そう言った結之が笑ったのを見て、むくは首をかしげた。
僕たちってどういうことだろう。
そう思いながらも、結之が嬉しそうにしているのを見たら何も聞けなかった。
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