隣
目が覚めたら、ぎゅっと熱いくらいの体に抱きしめられていた。
心地よいベッドの中、目の前のぬくもりに擦り寄る。
久しぶりに触れた体温が気持ちよくて、胸元にキスをした。
優しい休みの静かな街の音が聞こえる。
「おかえり…、ごめんね」
聞こえないくらい小さな声でそう囁いて、むくは壱琉の背中に腕を回した。
すぐに腕が背中に回り、抱きしめられる。
寝ぼけているとは思えないくらいの腕の力に思わず笑った。
素足を絡ませてすり寄せればぎゅうっと心臓が締め付けられる。
「むく…」
寝息が旋毛にかかり、そのあと優しく低い声で名前を呼ばれる。
ちらりと壱琉の方をむくと、壱琉はまだ眠っていた。
甘い寝言に笑みがこぼれる。
「ここにいるよ」
もう一度胸に顔をすり寄せる。
また背中に回った腕が抱きしめてくれた。
学校が休みの今日は、ずっとこうしていたい。
「ん…、むく?」
「起きてるよ」
「ああ…、おはよう」
「おはよ」
おはようのキスを壱琉の頬に送る。
すぐに同じ頬の位置にキスが送られて、むくは笑った。
「いち、今日はずっと、」
「ああ、俺もそう思っていたよ」
先に起きた壱琉がそっとむくの頬を撫でる。
すぐにむくも体を起こして壱琉の首に腕を回して抱きついた。
「お腹減ってる?」
「まあ、そこそこに。あ、昨日買ったパンがあるから、軽く食べるか」
「うん、でももうちょっと…」
「もちろん」
笑いながら背中は撫でてきた壱琉の頬にキスをする。
同じように壱琉もすぐにキスをくれた。
カーテンの隙間から陽の光が入る。
暗い部屋の中で唇以外にキスを続けた。
「ふふ、くすぐったい」
「はは、…飯食うか」
「うん」
もう一度、今度は額にキスをしてから、ふたりは寝室を出た。
隣を歩く壱琉が嬉しそうに笑っていて、むくも笑う。
トンっと壱琉の肩にぶつかると、腰を抱かれた。
「寂しかった?」
そう聞くと壱琉は笑って寂しかったよと答えてくれた。
小指を絡めてそっと離す。
「まだ眠いかも」
「そうだな。飯食ったらリビングで昼寝?」
「いいね。いち…」
キッチンでパンを準備している壱琉を読んだ。
小さな声だったけれど、すぐに振り返ってくれる。
こっちを向いた壱琉は優しく微笑んでいた。
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