春の空とこんにちは
初めて出会ったのは、覚えてないくらい小さな頃。
だけど、それでもずっと一緒にいるのは、きっと運命だからなのだと思う。
そう、兄たちのように、きっと運命だから、ずっと一緒にいてくれるのだと思っていた。
「むくももう3年生だね」
「うん。たぁちゃん、今までありがとう」
「ふふ、何言ってるの、水くさいなぁ」
「むく、ここまで丈夫に育ったのたぁちゃんのおかげだもん。たぁちゃん、大好き」
「たぁもだよ、むく」
小さい頃はうんと大きかった腕の中は、成長して同じくらいの背丈になってからは、少しだけ窮屈になった。
それでもまだこの温かな腕の中はむくの特等席だ。
嬉しそうにむくの背中を撫でる兄の汰絽の腕が心地よくて、むくは思わず微笑む。
「汰絽、むく、そろそろ行くぞー」
「あ、はーい。むく行こうか」
「うん。お父さーん、行ってきまーす」
「風斗さん、行ってきますね」
部屋の奥から聞こえる行ってらっしゃいの声に、汰絽とむくは顔を合わせて笑った。
玄関で待ってたもうひとりの兄の風太が手招きしてる。
行ってきますの挨拶を交わしてから、3人は部屋を出て行った。
「今日は壱琉が迎えきてくれるから、そのままお泊まりしてくるね」
「うん、わかった。風太さん、今日帰り、お豆腐買ってきてくださいね」
「おう。今日は早く帰るから」
「はーい」
マンションのエントランスで振り返って汰絽に伝える。
それからもう一度挨拶をしてから駆けていった。
マンションの外に出れば、春の空が出迎えてくる。
穏やかな陽気の中、ひらひらと桜が舞い散っていた。
「早く帰りにならないかなー」
「何言ってんの、むく。まだ学校についてもないのに」
「そうだった。おはよう、ゆうちゃん」
「おはよう、むく」
幼稚園からの幼馴染であって親友の朝城結之に声をかけられ、むくは振り返った。
結之は小さい頃はむくと同じくらいの大きさだったけれど、小学生の最終学年の時についにむくよりほんの少し大きくなった。
少し離れた目線の高さに、少しだけムッとしながらむくはいこっかと笑顔を見せる。
一緒に歩いているとまだ通い慣れていない中学校が見えてきた。
「クラス一緒で本当に良かったよ。まだ全然クラスの人と話せてない」
「人見知りするからだよ」
「治したくても治らないからねえ」
ぼんやりと話しているうちに教室に入り、自分の席についてカバンをかける。
それからすぐにもう一度結之のそばに行った。
まだまだ授業は始まらない。
「ゆうちゃん、今日このまま壱琉のとこ行くから、今日は先帰るね」
「了解。ここ最近、よく行くね」
「んー、中学生になったからね。たぁちゃんがあまりダメって言わなくなったし」
「そうなんだ」
結之の前に腰をかけ、今は仕事をしているだろう相手を思い浮かべる。
長い指先が気だるげに働いていると考えると少しだけ笑えた。
早く会いたい。
そう思っているのは自分だけなのだろうか。
会いたいと、いつも少しだけ抱えている不安に、窓の外へ視線を向けた。
「なんだか、変な気持ち」
そう呟いたむくに結之は首を傾げた。
窓の外はひらひらと舞い散る桜で綺麗だった。
春の空とこんにちは
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