素直になんて
結之を見送り眠る準備ができてから、部屋でひとり携帯を眺めていた。
電話はかかってこず、昨日送られたメッセージがぽつんとひとつ。

今日から一ヶ月、海外出張で連絡が取れなくなる。
次には、声を聞かせて欲しい。
俺の可愛い赤ちゃん、おやすみ。

知らなかった。
これから、一ヶ月も会えなくなることも。
電話に出なかったから、気付けなかった。


「…ばか」

自分に向けて言ったのか、それとも…。
どうしようもない気持ちになって、むくは携帯を投げ出した。


「会いたいよ」

小さな声でつぶやいて、むくは眠りに落ちた。


夢の中では、壱琉にぎゅっと抱きしめられていた。
それから海辺を手をつないで笑いあいながら歩く。
人が居ても気にせずに。
楽しそうに、幸せそうに。
夢だと気づいても、幸せだった。

「ごめんね。むく、壱琉のこと…」

素直になれて、壱琉もずっと笑ってくれていた。
隠していた気持ちも、気づかなかった気持ちも。
全部全部さらけ出していた。



目が覚めたら、何も残っていなかった。
メッセージも電話も。
むくの望んでいたものはひとつも残っていない。
ひとりぼっちのベッドから降りて、家族のいるリビングへ向かう。


「おはよ」

「うん、おはよう。むく、壱琉さん…」

「ん、知ってるよ」

「そう、ならよかった。ご飯出来てるから、どうぞ」

「うん」

小さく笑うと汰絽が笑い返してくれた。
テーブルについて、目の前にあるご飯にホッとする。
むくよりも遅く来た風太と父もすぐにテーブルについた。


「おはよう、僕可愛い息子さんたち」

父の嬉しそうな表情に、むくと汰絽は顔を見合わせて笑う。
今日は全員仕事や学校があるようで、当番だった父が洗い物をしている。
学校の準備のできたむくは、家族に声をかけて家を出た。
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