会いたくないよ
「むく、携帯なってるよ」

「え?」

マナーモードになっていた携帯に結之が気付いて、むくに手渡してくる。
携帯の画面に表示された名前にむくは、携帯をテーブルに戻した。


「出ないの」

「いいよ」

切るわけでもなく鳴り続ける携帯に結之は首をかしげる。
むくは何も言わずにゲームを続けていた。
そんな様子に結之も小さく頷いてむくの頭を撫でる。


「なあに、ゆうちゃん」

「別に〜。ふわふわの髪の毛が気持ちよさそうで」

「ふふ、笑わせないで」

結之の手に笑っていると、ようやく電話が切れた。
電話が切れたら心がぽっかりと穴が開いたようになる。
あと何回、こんな気持ちを味わえばいいのだろうか。


「なんか昨日の夜からずっとゲームしてて飽きてきたね」

「うん。むく、どっか行きたいところある?」

「んー…。ないかな…。たぁちゃんいるし、リビング行く?」

「そうだね」

ゲームを止めて片付ける。
それから、少しだけ嬉しそうな結之と一緒にリビングへ向かった。
リビングに行くとちょうど汰絽がダイニングのテーブルについて、携帯を眺めている。
挨拶をしてから、リビングのソファーに腰を下ろした。


「たぁちゃんお菓子ある?」

「昨日のクッキーの残りとパウンドケーキあるよ」

「食べるっ。紅茶も〜。たぁちゃんも一緒に食べよ」

「うん、今用意するね。ゆうちゃんは飲み物は何がいい?」

「むくと同じのお願いします」

「はーい」

返事をした汰絽にありがとうと伝えてからふたりはテレビを眺めた。
すぐに用意してきた汰絽が、飲み物やお菓子をテーブルの上に乗せる。
むくと結之の座るソファーの斜め向かいに座った汰絽が小さく笑った。


「ん、おいしい」

「美味しいよ、汰絽ちゃん」

むくと結之の言葉に汰絽がもう一度嬉しそうに笑った。
携帯を手に取り画面を見る。
メッセージが一件入っていた。
結之と汰絽が話すのをぼんやりと聞きながらメッセージを開く。

声が聞きたい。
話がある。

短く書かれたその言葉に、何も返信を返さず携帯を置いた。
嘘つき。
心の中で小さく浮き上がった言葉に、むくは心がぎゅうと締め付けられるような感覚を味わった。
結之がトイレに席を立ってから、汰絽がむくを不安そうに見る。


「なあに、どうしたの」

「…むく、壱琉さんと何かあった?」

「…なんで」

「むくが電話に出ないって連絡が来たの」

汰絽の言葉にむくは口をつぐんだ。
それから答えたくない、と、手をぎゅっと握る。


「もうむくもいろいろ考える年にもなったし、深くは聞かないよ」

「ん」

「でも、もしむくが悩んでるなら、汰絽はいつでも相談にのるからね。それと…、我慢しなくて、いいんだよ」

汰絽の優しい声に、むくはこくりと頷いて手のひらの中の携帯を見た。
電話に出る気は…、素直になる気はまだない。
なんて話したらいいかもわからない。


「たぁちゃん、ありがとう」

力なく笑って、そう伝えると汰絽は頷いた。
大丈夫だよ、と優しく囁かれる。
戻ってきた結之が不思議そうに首をかしげていた。
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