涙が止まらない
小さな声で帰宅の挨拶をしてから、自分の部屋に入った。
ベッドに倒れ込んで、もぞもぞと布団の中に入る。
携帯電話を床に落としため息をついた。


朝見た光景が忘れられない。
親しそうに組まれた腕。
むくには絶対にできないことだった。
海に行った時、手をつないだ。
人の声ですぐに離した時、どうしようもなさを感じた。


「…やになる」

小さな声でそう呟き、むくは熱くなった目頭をそっとおさえた。
嘘つき。
心の中で呟いて枕をぎゅっと抱き締めた。
ぽたぽたと頬を流れる涙が止まらない。

床に落としていた携帯が特別な音楽を鳴らした。
その音にびくりと身体が揺れる。
今日はもう電話に出るつもりもない。
携帯を手に取り、電源を切った。


「知らない、バカ」

ぐずぐずに濡れた泣き声で、そう言ってむくは身体を起こした。
それからお風呂場に行き、風呂に入る。
お風呂に入れば余計に涙がこぼれた。


「う〜…っ」

ぱしんとお湯を叩いてから、泣いてるのがバカらしくなって顔をバシャバシャ洗う。
お風呂から上がって目元の赤みを取ろうと冷やした。
リビングの方から汰絽の呼ぶ声が聞こえて、急いで服を着込む。
顔を見て、泣いていたことがばれないか確認してから、リビングへ向かった。


「たぁちゃん、どうしたの?」

「あ、ごめんね、お風呂はいってたの?」

「うん、早めにお風呂は入りたくなっちゃって」

「そっか。用事は大したことじゃないの、プリン買ってきたから一緒に食べないかなって思って」

「本当? 食べる〜っ」

汰絽のついているテーブルにすぐにむくも座り、汰絽の出したプリンを見る。
むくの大好きな店のプリンで、汰絽の入れてくれた紅茶も置かれていた。
目の前に座った汰絽を見ると、汰絽が優しく笑っている。


「ふふ、むく、ここの店のプリン大好きだね」

「うん、美味しいよね。甘くて優しい味」

「そうだね、甘くて、優しい味」

嬉しそうに笑う汰絽にむくも嬉しくなった。
プリンを食べると、優しい卵の味が口の中で広がる。


「むく…、何かあった?」

「え…? どうして」

「悲しい顔してる」

「そうかな、そんなことないよ〜」

むくはそう言いながら笑い、プリンを食べる。
美味しいよ、と笑えば汰絽も納得は言っていないようだが、笑って頷いた。


「今日の夜はむくの好きなご飯にしようね」

「やったーっ、むくグラタンが食べたい」

「わかった。今日の夕飯はグラタンとキャベツのスープにしようかな」

「夕ご飯楽しみ〜」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

汰絽がむくの口元についたプリンをすくって食べる。
優しく微笑んでいる汰絽にむくも笑った。
汰絽のそばはとても落ち着いた。
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