熱が上がってそれから
家に帰ってからリビングのソファーに横になったらため息が漏れた。
仕事が休みだった父がそばに寄ってきて、額に手を当てられる。
触れた父の手がとても冷たくて、むくは大きく息を吐き出した。


「むくくん、もしかしてお熱があるんじゃないかな」

そう言って父はすぐに体温計を棚の中から持ってきて、むくに手渡す。
脇の下に差し込んで待つ。
ピピピ、と体温計の音が聞こえてきて、のそのそと体温計を取り出した。
体温計を見たら、一気に体のだるさが増してなんだか泣きたくなる。


「むくくん、何度だった?」

「…7度8分…」

「思ったより高かったね。今日はお風呂休んでお部屋で休もうか」

「うん…」

父に体を支えてもらいながら起き上がり、ゆっくりと部屋へ向かう。
体のだるさと頭痛が襲いかかってくる。
部屋に来て着替えてからベッドに入ると頭がぼんやりとしたきた。


「お腹は空いている?」

「ううん…、みんなと一緒で大丈夫だよ」

「わかった。汰絽くんが帰ってきたらおかゆを作ってもらうね。だるさの他は症状はある?」

「頭が、痛い…」

「わかった。お薬用意しておくね。夕飯食べたら薬飲もうか」

「うん」

「今冷えピタとか持ってくるからね」

父が心配そうな表情で一生懸命に看病しようとしているのを見て、むくは力なく笑った。
冷えピタを持ってくると言って部屋を出て行った父の背中を見送る。
部屋で一人ぼっちになったら、寂しさがこみ上げてきた。


「いち、何してるのかな…」

思わず最近会えていない壱琉のことを考えてしまい小さく呟く。
風邪の時は余計なことを考えてしまい、仕方がない。


「入るよ、むくくん」

冷えピタや氷枕を持って戻ってきた父は、むくの頭の下に氷枕を入れて、冷えピタを貼る。
顔にかかった髪を払って、父はむくの額にキスをくれた。


「ご飯まで寝ててね」

「うん…」

「何かあったら、呼んでね」

「うん、ありがと、お父さん…」

父にお礼を伝えて、むくはそっと目を瞑る。
ぼんやりとした意識の中で、無性に壱琉に抱きしめてもらいたくなった。




「ん…」

目が覚めると、体のだるさが少しだけ減っていた。
それでもぐったりとしている体は言うことを聞かず、寝返りを打つのも億劫だ。
小さくため息をつくと、ノックの音が聞こえた。
ノックの後、すぐにドアが開き汰絽が入ってくる。


「たぁちゃん…」

「むく、起きたみたいだね。大丈夫?」

「うん…」

「おかゆ持ってきたから食べよっか」

「ん…」

ゆっくりと起き上がってから、膝の上に置かれたおかゆの蓋を汰絽が開けてくれる。
むくのベッドに座った汰絽を見ると、優しく微笑んでくれた。


「今年もやっぱり春に風邪をひいたね」

「…そうだね」

「季節の変わり目はいくら丈夫なむくでも、風邪ひいちゃうね」

「ん…。たぁちゃん、ご飯食べたらぎゅっとして、眠まで一緒にいてくれる?」

「うん、いいよ」

汰絽の答えを聞いて、おかゆを食べる。
ほんのりときいた塩味が美味しい。
おかゆを全部食べてから、汰絽から痛み止めと風邪薬をもらって飲む。
それから、汰絽にぎゅっと抱きしめてもらった。


「すぐにきっと元気になるよ」

おやすみのキスをもらってから横になったら汰絽が手を握ってくれる。
それから目を瞑ると、すぐに眠れそうだった。
prev | next

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -