大人になれない
「むく、大丈夫?」

「んー、寝れてなくて、ちょっと疲れてるかも」

HRが終わって教室の自分の席で突っ伏していると結之に問いかけられた。
体を起こして結之に答えていると、頭がズキズキと痛み出した。


「時々寝れない時期あるよね」

「うん、なんでだろう。昔っからそうなんだよね」

「ふうん。…じゃあ今日は早く帰ろうか。僕も生徒会ないし」

「本当? んー早く帰ろ」

リュックの中に教科書を詰め込んで、一緒に帰ろうと立ち上がる。

壱琉の仕事の都合で会えなくなって2週間が経つ。
時々電話もするけど、それも少しの時間で、寂しさが積もってきた。
それもあるのか、眠りが浅くてストレスも溜まる。
元気のないむくに、結之は不安そうにむくの額に手のひらを当てた。


「ゆうちゃん、熱ないから大丈夫だよ」

そう言って笑うと、結之も小さく笑った。
教室を出て行くと、伊賀と朝田が部活へ向かう後姿が見える。
むくはあれ以来伊賀と朝田に苦手意識を持ってしまい、少しだけ足取りが重くなった。


「…やだな」

「むく?」

「なんか、自分の心が狭いみたいな感じで」

「ああ、朝田と伊賀こと?」

ゆっくりと歩いて、玄関から出る。
それから学校を出て、帰り道を歩く。


「むく、僕とかたぁちゃんとか、親しい人以外に自分のこと詳しく聞かれたりするの嫌いだもんね」

「うん、そのせいで朝田と伊賀と気まずくなっちゃった」

「そうだね」

「伊賀にさ、壱琉のことたくさん聞かれてちょっとやになっちゃった」

そう言って、うつむいたむくに、結之はそっか、と小さく答えた。
むくは最近のほとんどを結之のそばを離れずに、朝田や伊賀のことを避けている。
次第に話すことも少なくなって、ほとんど一緒にいない。
結之に申し訳なくなって、小さな声で謝った。


「別に平気だよ。正直、僕は親友のむくさんがいればいいかなとか思ってますよ」

茶化すようにそう言った結之にむくも笑った。
幼稚園からの親友は、いつまでたっても親友だ。


「本当はダメだよね、こんなの」

「そうだね」

「でも、疲れちゃった」

「そっか」

壱琉と過ごすうちに、壱琉と家族と結之だけいればいい。
そんな風にさえ思ってしまうことがある。
壱琉にそのことを伝えた時に、すごく怒られて、それ以降はそんなことは言えなかった。


「壱琉に怒られちゃう」

「なんで?」

「…壱琉と、ゆうちゃん以外にもちゃんと友達作って、勉強して、普通の学校生活を送ってって」

「…よくわかんないね」

「むくも、よくわかんないの」

まだまだ子どものふたりは、顔を見合わせて首を傾げた。
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