甘いココアの香り
家についてから荷物を置いてすぐに風呂に入った。
髪も身体も洗ってもらい、すぐに湯船に浸かる。
壱琉の胸に身体を預け、深く深呼吸する。
たくましい腕がむくの身体を後ろから抱きしめた。


「落ち着いたか」

「ん、いちの腕あったかい」

「お前の身体もあったかいよ」

「いち」

甘えるように腕を撫でたむくは、こてんとその腕に頭を預ける。
いつもよりうんと素直になれているような気がした。
このままずっとこの腕の中で甘やかしてもらいたい。
そんな魅力にとらわれる。


「のぼせる前にあがるぞ」

そう囁かれて、先にむくは立ち上がった。
お風呂場から出てすぐに着替えてリビングに行く。
リビングの涼しさにむくはうんと伸びをした


「夕飯なに食べたい」

「…んー、いちは何か食べたい?」

「俺も特に食べたいのがないな」

「…冷蔵庫の中、なにがあるの」

「肉と野菜と米、カレールー」

「大雑把。カレー作ろうか?」

そう呟くと壱琉がむくをぎゅっと抱き締めた。
なに、と聞くと、嬉しくて、と返事が返ってくる。
その答えがむくも嬉しくて、振り返って抱きついた。


「このままじゃ作れないよ」

「そうだな」

そっと囁くと、壱琉は笑って抱き締めた腕を離した。
頬を撫でられ、優しくそのまま髪を撫でられる。


「むくの作るカレー好きだ」

「たぁちゃんから教えてもらったから美味しいんだよ」

「そうか」

壱琉から離れてキッチンへ行く。
冷蔵庫から材料を出して、作り始めた。



「いただきます」

出来上がったカレーと、壱琉の入れたお茶をテーブルに置いて挨拶をする。
少しいびつな形に切られた野菜に、壱琉は小さく笑った。


「美味しいよ」

「よかった」

「明日の宿題はあるのか」

「うん。でも昼休みに終わらせてきたから、間違えてるところがないかだけ見て」

「あぁ、いいよ」

静かな部屋でカレーを食べて、お茶を飲む。
食べ終わってから、壱琉が食器を洗って片付ける。
むくはソファーに座って鞄の中から宿題を取り出して、テーブルに置いた。


「むく、ココアは?」

「いる」

食器を洗い終えた壱琉はココアを入れて、すぐにむくの隣に腰を下ろす。
ココアを受け取り、一口飲んだ。
それから、壱琉の膝の上に横になる。
頭を乗せれば、すぐに壱琉がむくの髪を撫でた。


「宿題は?」

「そこ」

「これか。英語? 英語は得意だろ」

「ん。でもちょっと微妙なところがあって」

「ああ」

壱琉はプリントをとって、問題を見ていく。
どれも答えは正確で、間違っているところは一つもなかった。


「全部当たってるよ」

「ん、ならよかった。その考えかたでいいんだ」

「ああ。むく」

優しく呼んだ声に応え、起き上がり壱琉の膝の上に乗る。
それからぎゅっと抱きつく。
甘いココアの香りが漂った。
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