ただいま、我が家
「ただいま」

「お帰りなさい、むく。遅かったね」

汰絽からおかえりのキスをもらい、むくもただいまのキスをおくる。
部屋の中に入れば、父と風太がソファーでくつろいでいた。
家に帰ればホッとして、疲れがどっと湧いてくる。
作楽と遊べたのは楽しかったけれど、なんとなく疲れが残っていた。


「むく? 何かあったの」

「んーん。学校で疲れただけ」

「壱琉さんには会えたの?」

「壱琉、仕事が入ったって。教科書は作楽ちゃんが持ってきてくれたの。それから作楽ちゃんとちょっと遊んできた」

「そっか。楽しかった?」

汰絽の問いかけに頷いて、むくは父と風太の間に座る。
すぐに汰絽が温かいお茶を持ってきてくれた。
そのお茶を飲んでホッと一息つけば、隣に座っていた父がむくの頭を撫でる。


「私の可愛い息子は遅くまで遊んでたのかな」

「ごめんなさい。作楽ちゃんにドライブに連れてってもらってたの」

「そう、五十嵐くんなら大丈夫だね。次はちゃんと連絡するんだよ。汰絽くんと風太が心配していた。もちろん私もね」

頷いて笑えば、父も笑ってくれる。
早くお風呂に入っておいでと促されて、むくは部屋を出た。



湯船から上がって着替えていると携帯が鳴っていることに気づいた。
壱琉からの着信で、すぐに電話を取る。


「壱琉? どうしたの」

『やっと出たな、今どこにいる?』

「お家。今お風呂はいってたの」

『そうか。むく、今電話してても平気か』

「ちょっと待って。お部屋に戻るから。おやすみの挨拶してくる。またかけるね」

『ああ。待ってるよ』

電話を切って急いで服を着込む。
もう春だけれど、夜は冷え込む。
服を着てから急いでリビングに行っておやすみのキスを家族からもらった。
携帯を片手に自分の部屋に戻って、ベッドに腰をかけ背中を壁に預けた。
それから壱琉の番号を呼び出して、すぐにかける。


「もしもし」

『もしもし、挨拶は済んだか?』

「うん。あ、作楽ちゃんから教科書もらったよ。ありがとう。あとね、ドライブに連れてってもらった」

『そうか。それは良かった』

壱琉の優しい声にむくは小さく頷いた。
いつもベッドの枕元に置いている4歳の時のクリマスプレゼントの手作りのクマを抱きしめる。


『むく、今日はごめんな』

「ん…。別に、気にしてない。お仕事だし、仕方ないよ。ごめんなんて言わないで」

少しだけ大人のふりをして、呟く。
本当は文句だって言いたい。
会えるって期待してて、それがなかったことになって。
泣きたいくらい寂しい思いをした。
そう伝えてしまいたかった。
鼻をすすって、咳払いをすれば、壱琉の優しく呼ぶ声が聞こえた。


『むく』

「…何」

『俺にもいい子になるのか?』

「いち、いじわる…っ、むく、今日、すごいやなことあって、会いたかったのに。でもお仕事だから、って」

『あぁ、そうだったのか、ごめんな。俺も会いたかったよ、むく』

「んっ、ん、あ、明日、会える? 学校行きたくない、いちのとこ行きたい」

『あぁ、明日は絶対会える。…学校休むのはダメだ。俺のところに来るのならちゃんと学校に行ってから。そう約束しただろ?』

ぼたぼたと涙がこぼれ始め、壱琉の声を聞く。
優しい声にわがままがこぼれ落ち初めて、止まらない。
会いたいと伝えれば、そのまま何もかも投げ出してしまいたくなった。


『明日、泊まりにおいで。汰絽には伝えておく』

「ん、うん…」

『今日はゆっくり寝れそうか』

「ん…、疲れたから、寝れる」

『そうか』

壱琉の声が優しく耳に響く。
布団の中に入り込んで、横たわった。
電話の先の壱琉も、もう眠るのだろうか。


『今日はもう寝な』

「いちは?」

『俺も寝るよ』

「うん…」

『おやすみ、俺の可愛い赤ちゃん』

「ん…」

甘く囁く低い声に誘われて、瞼を下ろす。
電話を持つ手がクタクタになり、携帯がベッドに落ちた。
もう一度、優しくおやすみと囁く声が聞こえて、むくは眠りに落ちた。
prev | next

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -