お家
「ただいまー」
「お邪魔します」
丁寧に挨拶した壱琉に笑いながらむくは家に帰ってきた。
リビングには家族全員が揃っている。
汰絽と風太はキッチンに立ち、夕飯を作っていた。
父はソファーに座り夕刊を見ている。
「おかえり、むく」
そばに寄ってきた汰絽からおかえりの挨拶をしてもらう。
汰絽にただいま、と返事を返してから、壱琉の手を引き、洗面所で手洗いをした。
リビングに戻って、父の向かいにあるソファーに座れば壱琉も隣に腰をおろす。
「久しぶりだね、壱琉くん。調子はどう」
「まあそこそこです。風斗さんは、体調は大丈夫ですか」
「ピンピンしてるよ。あ、夏になったら、この間みたいに一緒に海に行かないか。むくが喜ぶ」
「お父さん、むくここにいるんですけど」
そう言ってムスっとしたむくに父は笑いながら、コーヒーを飲む。
壱琉も同じように笑いながら、むくの頭を撫でた。
「壱琉さん、夕食食べてきますか」
「いいのか」
「構いませんよ。あっ、風太さんじゃがいももっとお願いします」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「はーい。じゃがいも終わったら、今度こっち」
「おう」
汰絽と風太が楽しそうに夕飯を作ってるのを眺める。
ふたりは幸せそうに時々顔を見合わせて笑っていた。
父に視線を向ければ、父もそんなふたりを幸せそうに眺めている。
「ふふ、みんな幸せそうだなぁ」
思わずそう呟くと、隣に座った壱琉が小さく笑った。
それからもう一度頭を撫でられる。
「お前も幸せだろ」
「…もちろん。むくはたぁちゃんが幸せそうにしてると幸せだよ」
「優しいな」
「そんなことない。…あ、壱琉、お茶とアイスコーヒーどっちがいい?」
「アイスコーヒーで」
「ちょっと持ってくる。待ってて」
頷いた壱琉に、むくは笑いかけてキッチンへ向かった。
キッチンの先には幸せそうな兄たちがいて、むくはホッとする。
壱琉の家で過ごした時間とは違う穏やかで優しい時間も幸せで、むくは少しだけ強くなる。
「あ、風太さん今度こっち」
「おう、あ、汰絽その鍋かして」
「ん。なにするんですか」
「むくにホッとミルク入れてあげようと思って」
「本当? 風太」
「飲むか?」
「もちろん」
食い気味で答えたむくに風太は嬉しそうに笑った。
最近、風太は汰絽に似た笑みを浮かべることがある。
心から優しくて、暖かい笑み。
むくはそんなことが嬉しくて、同じように笑った。
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