おやすみ、可愛い
夕飯を食べてから、ソファーで膝を抱えて待っていると、壱琉がすぐにそばに座った。
ココアが出来上がったようで、いい香りがしてくる。
テーブルの上に置かれたマグカップを見て、むくは手を伸ばした。


「…ありがと」

「どういたしまして」

ココアを口に含むと甘ったるい味が広がる。
家で飲むココアよりもうんと甘くて、胸焼けしそうだ。
それでもここで飲むココアが一番好きで、もう一度飲む。


「いち」

「どうした」

「ご、ごめんなさい」

「謝ることしてないだろ」

「つねったもん」

むくがそう呟くと、壱琉は柔らかく笑ってむくの髪を撫でた。
その手が優しくて、また素直じゃないことを言ってしまいそうになる。
優しくしないで。
そう言ってしまいそうで、でも、なぜそんなことを言いたいのかわからない。
もやもやした気持ちが胸の中に残る。


「いち」

「今度はどうした」

「…んーん、何にもない」

そう呟いて、もう一度ココアを飲んだ。
優しくて、甘ったるくて、いつも壱琉からもらうもの全てに似ていると思う。
膝を抱えて壱琉を見ると、壱琉は優しい顔をしてむくを見ていた。
ぎゅっと胸が締め付けられる。


「美味しい…」

「俺には少し甘すぎるけど」

「むくは好き」

「なら、良かった」

飲み終えたマグカップをテーブルに置いて、壱琉の膝の上に寝転がる。
静かに髪を撫でられて、その心地よさに目をつむった。


「歯磨きしてから」

耳元でそう囁かれ、むくは小さく笑った。


「うん」

返事をしてから起き上がる。
すぐに歯磨きを終わらせてから、ふたりは寝室に行く。
ベッドに壱琉が壁に背中を預け座れば、むくはすぐに膝の上に戻ってきた。
うんと伸びをする様子は猫のようで、壱琉は小さく笑う。


「おやすみのあいさつするか」

「ん、して」

「目をつむって」

そっと目を瞑れば、壱琉が額にキスをくれる。
目を開ければ、大きな手のひらがむくの髪を撫でた。
むく、と低く甘い声で呼ばれ、体を起こす。
同じように目をつむった壱琉の頬におやすみのキスを送った。
ベッドに入って、壱琉の腕の中に入る。


「おやすみ、俺の可愛い…」

その先は、眠りについていく中で聞こえなかった。
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