家族記念
「すごい…、こんな、素敵な…」

「だろ。結構使いあましてるんだけどな。だいたいリビング側にいるから、結構汚い」

「…確かに…、後でお掃除しましょうか?」

「ああ、頼む。冷蔵庫の中とか空だから、後で買い物行こうぜ」

「はい」

風太がもう一度荷物を持ち上げたのを合図にふたりはリビングから廊下に出た。
リビングに入る前に右に曲がると、ドアが見えた。
ひと部屋ひと部屋説明を受けながら、歩いて、すぐに風太がドアを開いた。


「ここが、たろとむくの部屋。…もうふた部屋空き部屋があるから、いずれはそこをむくの部屋にすればいいと思ってる」

「…そんな、あの…」

「部屋余ってるから気にするな。あ、ほこりだらけだから、偶に掃除しなきゃだな」

「…ありがとうございます」

「家具は家にあるものが入ってるけど、替えたかったら言って」

「…あの」

「家族なんだから、気にするな。甘えろよ?」

風太が茶化すようにそう言ったのを聞いて、汰絽は照れるように笑った。
ベッドの脇にある大きなクローゼットを開くと、服がたくさん収納できるようになっている。
服の隣には本棚もあり、そこにはまだ何も入っていなかった。
テレビもおしゃれなディスクも置いてあり、何もかもがそろっている。
あまりの待遇の良さに申し訳なさを感じる。
けれど、風太の飯と掃除、頼んだぞーとの声に救われたように感じる。
荷物を早く片付けようと、大きな鞄を開いた。


「洋服入れるところ、右がたろで左がむくでいいか?」

「はい、お願いします」

「鞄とかはタンスの脇にかけるところあるから、そこにかけるぞ」

「はい」

風太に手伝ってもらいながら、荷物を片づけていく。
ひとりで持てる程度の荷物だけだったこともあり、すぐに終わる。
それから一通り説明してもらい、むくを迎えに行くついでに買い物に行こう、ということになった。


「俺さ、今日は別として、土曜の夜は家明けること多いけどいい?」

「構いませんよ。…夕飯は?」

「済ませてくるようにする」

「はい」

鍵を閉める風太にそう言われ、頷く。
財布にカードをしまった風太を見て、汰絽は足を進めた。


「…いまさら何ですけど、本当にありがとうございます。感謝しても、しきれないです」

「そんなかしこまるなよ。お前んとこのばあちゃんの頼みだし、それに俺はお前と過ごせるのが、楽しみでしかない」

「…照れちゃいますー…」

「うわ、真っ赤」

笑い声が重なって、汰絽は俯いた。
頬が熱い。
慣れない感じで、少し戸惑いながらもエレベーターに乗る。
風太が笑う声が聞こえてきた。

公園に着くと、大きな笑い声が聞こえてきた。
楽しそうに遊んでいたむくと夏翔がふたりに気づいて大きく手を振る。
公園に入るとむくが駆け寄ってきて、汰絽の足元に抱きついた。


「井川さん、ありがとうございました」

「いえいえ。楽しかったな、むく」

「うんっ」

「ショウ、鍵。このまま買い物行くから」

「ああ。汰絽ちゃん、むく、またな」

夏翔が手を振ってマンションの駐車場に向かっていくのを見送る。
風太がむくを抱きあげた。
嬉しそうに手を振っているむくに笑い、スーパーへ向かった。


「夕飯何にします?」

「んー。むくは何がいい?」

「グラタン! 今日、おいわい!」

「なんの?」

「おひっこしのー!!」

「あ、そうだね。グラタンにしよっか」

「お祝いならケーキも買うかー」

ケーキの言葉に嬉しそうに笑ったむくに、風太と汰絽は顔を合わせて微笑んだ。
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