柔らかな?
「汰絽ちゃん、ふたりを起してくれ。着いたぞ」
「…着いたって、ここですか…?」
「そうだぞ。広いよなー」
夏翔に言われて窓から見たマンションは、汰絽が想像していたよりもうんと綺麗で、高級感を醸し出している。
思わずぼんやりと見つめてしまって、夏翔に軽く笑われる。
「広いっていうか…、ここ、高級マンションじゃないですか…」
「ん? 汰絽ちゃんも知ってるのか?」
「はい、幼稚園でママさん達がよく話してますから」
「へえ。あ、風太の部屋は11階だぞ」
「まじか…」
「おお、キャラが違う」
「いや、すごいですね…」
思わず変な言葉を使い、汰絽は軽く咳払いする。
そんな風に夏翔とやり取りをしていたら、寝息がひとつ、止まった。
先に起きたのはむくのようだ。
もぞもぞと起き上がったむくは、きょろきょろする。
「風太さん?」
声をかけてもなかなか起きない風太にもう一度ため息をつく。
車はエントランスの脇の駐車場に止められた。
車の扉を開けた夏翔がむくを抱きあげて、くるくると回りながら遊んでくれる。
「汰絽ちゃん、近くの公園で遊んでくるから、ふたりで荷物運んでくれるか」
「はい」
「あと、これ。車のカギ」
「はい。ありがとうございます」
「別に構わないよ。よし、むく、行くぞー!」
「わーいっ。かたぐるましてー!」
「おう」
行ってきます、とむくの元気な声を聞いて、汰絽は返事をする。
夏翔とむくが公園に向かって行った。
なかなか起きる気配を見せない風太に、困りながら、風太の頭をぽんぽんと撫でてみた。
さらさらな白い髪はさわり心地がよい。
「風太さん、起きてくださいな」
囁くような小さな声がようやく聞こえたのか、体が動いた。
風太の体重が汰絽にのしかかり、重さに耐えきれずに、シートの上に倒れる。
「ん、わっ」
風太に押し倒されるような形になってしまい、思わず顔が熱くなった。
温かい体温、温かい吐息が全身で感じてしまい、思わず身じろぐ。
首筋にかかる吐息が、とくにぞわぞわと背筋をわななかせた。
どんなに持ち上げようとしても、汰絽の力では少ししか動かない。
動いた時に、首筋に軟かな感触を感じ、汰絽は声をあげた。
「…っ、ひぁっ」
「ん…?」
びくりと動いた体に、刺激を感じたのか、風太の声が聞こえてきた。
あー、と声を漏らして、目を覚ました風太がばっと体を離す。
それから困惑したように、汰絽を見降ろした。
「は? …どうした、どうしてこうなった」
「ん、どいて…ください」
「悪いっ、…起きれるか?」
「…はい」
目を覚ました風太に腕を取られ、起き上がる。
あっけに取られながら、汰絽にえ?、と聞くように声をかける。
汰絽は頬を真っ赤に染めながら、風太を遠ざけようと手を胸に当てて突っ張った。
「…俺、なんかしたか」
「倒れて、起きなくて…!」
「それだけか?」
こくこくと必死に頷く汰絽にほっと胸をなでおろした風太は、気持ちを切り替えるため大きく息を吸った。
それから汰絽の頭を軽く撫でて、汰絽に降りるように伝える。
車から降りると、風太の耳が軽く赤くなっていて、汰絽はまた頬が熱くなるのを感じた。
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