おっきくなった?
病室に入ると、風斗がにこにこと笑っていた。
むくが一番に風斗に駆け寄って、ベッドによじ登る。
風斗は嬉しそうにむくを抱きしめた。
汰絽はむくに駆け寄って、履いていた靴を脱がせる。


「久しぶり」

「かざと、ね、むくね、おっきくなった?」

「どうかな。…あ、少し背が伸びたかな」

「えへへっ」

風太も中に入ってきて、汰絽と自分の分の椅子を出す。
腰を下ろして風斗の様子を見てると、むくが風斗に精一杯甘えてるのが見えて、思わず微笑んだ。


「今日は引っ越しだね」

「はい」

「忙しくなるね。大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

汰絽の嬉しそうな顔に、風斗は声をあげ笑う。
風斗の腕の中にいるむくも嬉しそうに笑っていて、どこか幸せを感じた。


「早く、元気になってくださいね」

「うん。汰絽君のご飯、病院食よりも断然美味しいからね」

「そんなことないですよ」

「はは。風太、ちゃんと手伝うんだよ」

「気が向いたらな」

「お前、もっとしっかりなさいな」

「うるせー」

風太が拗ねるようにそう言って、静寂が訪れた。
心地よい静けさに、汰絽は窓に目を向ける。
綺麗な青空。
もう少ししたら、梅雨に突入だ。
他愛のない会話を何度か交わしてから、3人は病室を後にした。


夏翔の車に揺られて、マンションへ向かう。
家のかぎや書類などはもう、本家に送った。
何となく胸が高鳴るのを感じて、膝の上で眠るむくの髪を梳いた。
可愛らしい寝息に小さく笑えば、肩が重くなる。


「…風太さん?」

小さく名前を呼ぶが返事が返ってこず、汰絽はそっと隣を見る。
隣から気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。


「い、いがわさ…」

「おっ、なんか面白いことになってるな」

赤信号で車が停まり、夏翔に助けを求めたが写真を取る夏翔はなんの助けにもなりそうにない。
何枚か写真を取った後、青信号になり車が動き始めた。
困り果てた汰絽は、肩に感じる重みにため息をつく。


「珍しいな。風太が人の傍で寝るの」

「え?」

「いや、何でもない。ま、疲れてるみたいだからさ、寝かしてやって」

「…しょうがないですね」

「ツンデレだな。もうじき着くから、それまでな」

夏翔はなんの助けにもならなかったが、まあいいか、と汰絽は肩の重みを甘んじた。
ふたつの寝息を聞きながら、窓に揺られる。
夏翔も汰絽も、ふたりを起さないように口を噤んだ。
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