幸せ
「汰絽ちゃん、おはよー」
好野ののんびりした声を聞いて、汰絽は笑みを浮かべた。
それはもう、とても幸せそうな顔で。
幸せ全開の汰絽に驚きつつ、好野は自分の席に腰を下ろした。
「どうしたのさ、そんな幸せそうな顔しちゃって」
「えー? そんなことないよ」
「いやいや、大分幸せそうですよ」
「そうかなぁ」
首をかしげた汰絽に、好野も同じように首をかしげる。
好野が首をかしげたら、汰絽はもう一度首を反対にかしげた。
そんなことをしていると、チャイムの音が聞こえてくる。
ふたりはくすくすと笑いながら、体を正しい方向へ向けた。
夏に向かう温かさでウトウトとしながらも、授業が終わった。
昼休みのどこかだらだらとした空気に汰絽は嬉しそうにする。
鞄を担いで、好野の手を取った。
「今日は屋上! ふ…、ふ、ふうたさんが待ってるって」
「え? ふ?」
「春野先輩が待ってるって!」
「あ、おう、え?」
はてなマークを浮かべてる好野の鞄を取り、早足で教室を出た。
ずんずんと階段を登って、屋上の扉の前に立つ。
それから、どことなく嬉しそうに、扉を開いた。
真っ青な空の下、フェンスにもたれた白色とピンク色が少し離れて並んでいる。
ほわっと口元を緩めた汰絽は、白色の方へ向かっていった。
「ふーたさん」
がしゃん、とフェンスが揺れるのを感じて、風太は隣へ視線を移した。
そこには自分よりもうんと小さなふわふわな髪を持つ子がいる。
その存在に、口元が緩むのを感じた。
「たろ、早かったな」
「そうですか?」
「それに、風太さんって呼べたな」
「…うれしいですか?」
じとっと見つめてくる汰絽に、小さく笑う。
ぽんぽんと頭を撫でて、座るように促した。
風太の隣に座ると、こちらに近寄ってきた好野と杏が腰を下ろす。
ガサガサと隣でコンビニの袋を開けるのを見て、汰絽は小さく声をもらした。
「コンビニ、ですか」
「作るの面倒だし」
「じゃあ、…今度からはお弁当ですね」
「ん? あ、そうだな。助かる。書類もちゃんと出してきたから」
「はい」
そんな風に話すふたりに、杏と好野が首をかしげた。
初めのころよりも、うんと仲良くなったふたりを不思議に思ってしまう。
「そういえば、ばあさんの仏壇、どこにあんの? この間行った時、見当たらなかったけど」
「お仏壇は、本家の方に置いてもらうので、移動しなくても大丈夫です」
「そうか。…それでいいのか?」
「いつでも、本家に行けますから。それに、写真があれば十分です」
「それならいい」
風太がそう言って弁当に箸を伸ばすのを見て、汰絽はこくりと頷いた。
夏に向かっていく温かな風はとても心地よくて、少しだけ眠たさを感じる。
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