胸の中にしまった空色
「じゃあ、今週の土曜日、また親父のとこ3人で行って、荷物とか移すけどいいか?」

「はい。わかりました。…あの、」

「ん?」

「先輩は、…迷惑じゃ、ないんですか」

「迷惑? …余計なこと考えるなよ。俺は飯を作る手間とかいろいろ省けるし、むしろありがたいから」

少し黙ってから困ったように微笑んだ汰絽に風太は、それでいい、と小さく呟いた。
ぽんぽんと小さな頭を撫でて、ついでにむくの頭も撫でる。


「じゃあ、そろそろ帰る。むく、じゃあな。たろは明日な」

「ばいばいっ」

玄関先に風太を送り出し、ふたりはリビングに戻った。


「むく、嬉しい?」

「うんっ」

「よかった」

「みんないっしょ!」

「うん。むくがうれしいと、たろも嬉しいよ…」

きらきらした瞳で話すむくに、汰絽は微笑んだ。
こんなにも嬉しそうなむくを久しぶりに見た気がして、少しだけ胸が締め付けられる。
安心したように微笑んだ汰絽に、むくも満面の笑みを浮かべた。


「アイス、食べよっか」

「うんっ」

キッチンへ入り、ふたりは冷凍庫を覗く。
パッケージから出されたアイスを見て。むくが嬉しそうにぴょんぴょんとジャンプした。


「たぁちゃんっ、きいろ?」

「うん、これはきいろ」

「あか?」

「うん、あかだよ」

アイスを指さして色の名前を口に出すむく。
愛らしい様子に思わず笑ってしまう。
色とりどりのアイスに小さな手が触れた。


「むく、きいろ好き?」

「すき。あかもすき!」

「そっか」

「ゆうちゃんは青がすき!」

「そうなんだ。青、綺麗だもんね」

「たあちゃんは、なにいろ好き?」

むくに問いかけられて、一番最初に浮かんだ色。
それは、桜のピンク色の中で見た。空のような青色だった。
その色の持ち主を思い出して、汰絽は思わず笑う。


「?」

「たろは、空色が好きかな」

「どんないろ?」

「お空みたいな、綺麗な青色だよ」

「むくもみてみたい!」

「今度探してみようか」

「うん!!」

思わず答えてしまった色は、風太の色だった。
探してみようかと言ったけれど、汰絽の中の空色は、風太の色。
秘密にしておきたい。
ひそかにそんな思いが胸を占めた。


「むく、アイス食べたらねんねしてね」

「うん」

いい子に返事をしたむくを、いい子だね、と褒めて汰絽はアイスの封を切った。
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