楽しく作る
「あ、そろそろむくのお迎え…」

「ん? あぁ、俺が行ってくる。飯作ってろよ」

「じゃあ、お願いします。何か食べたいもの、ありますか?」

「パスタ」

「わかりました。…待ってますね」

荷物を置いたときに、汰絽が腕時計を見ながら呟いた。
風太の提案に汰絽は助かったというように、笑みを浮かべ、風太に頼む。
夕飯のリクエストを聞いた汰絽は、冷蔵庫の中身を想像した。


「行ってらっしゃい」

玄関を出ていく風太に思わずそう声をかける。
嬉しそうに笑った風太が目に入って、汰絽は胸が温かくなるのを感じた。


玄関を出ると、思わず立ち止った。


―…待ってますね

満面の笑み付きのその言葉は、乙女でもないのに、風太の心をきゅんと動かした。
可愛らしい顔に可愛らしいセリフ。
何もかもが、愛らしくて、デレデレとした考えが頭をよぎる。
何分か立ち止ってしまい、外に出た理由を不意に思い出して、風太は足を動かした。


数分歩いて着いた幼稚園。
母親や父親と手を繋いで帰る子ども達が見えてきた。
風太は園内に入り、むくの姿を探す。
むくはいい子に玄関でちょこんと座っていた。
その隣には結之が座っている。


「むく、迎えにきたぞ。よっ、結之」

結之の頭をポンポンと撫でてから、むくを抱きあげる。
先生がすぐにやってきて、風太を見て目を見開いた。


「あれ、汰絽君は…」

「忙しいから、今日は俺が迎えに来ました」

「そっか。えっと…」

「春野です」

「春野君ね、むく君をよろしくね」

「はい」

先生と結之に挨拶をしてから、風太はむくを抱えたまま幼稚園を後にした。
抱っこされたむくは、風太の腕の中で嬉しそうに歌を歌ってる。


「ふうた、おとまり?」

「いや。今日は夕飯食べて帰る」

「えー」

「今度泊まるって」

「んー」

お泊りの言葉に嬉しそうに笑ったむくに、風太は安心する。
小さなむくの笑った顔は、どこか汰絽によく似ていた。

風太がむくを迎えに行っている間、汰絽は夕飯の支度をしていた。
なんだか支度をするのがとても楽しい。
思わず口笛を拭きながら、包丁でリズムよく音を奏でる。
パスタを茹でるのも、盛り付けるのも楽しい。
早く帰ってこないかな、と考えたところで手が止まった。


「もう少し、綺麗にしよう」

盛り付け途中のサラダを見て、もっと綺麗にしようと手を加える。
今日の夕飯は、いつもよりも気合が入っている。
自分の浮かれ具合に気づいた汰絽は、ひとり頬を赤く染めた。
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