優しい声
「春野先輩?」

「大丈夫か?」

「はい」

汰絽に声をかけられて、体の位置を戻した。
少しだけ頬が赤いのは、慣れない距離のせいだろうか。
汰絽の頬が赤い気がする。
軽い気まずさが押し寄せてきて、風太は軽く咳払いした。


「中学生のカップルかよ」

「ぁあ?」

夏翔の一言に風太が低い声を出して、風太も少し赤くなっていることに気がついた。
珍しい表情に思わず笑ってしまう。
それに気付いた風太が呆れたように、ため息をついた。


「笑うなっての。…たろ、今日は笑ってばっかりだな」

「春野先輩が、面白いから…」

「俺は面白くねえよ。お前の拗ねた顔の方が面白い」

風太はそう言ってから汰絽の頬を再度ぶにっと潰した。
むにむにとされている汰絽は、小さな手で一生懸命風太の手を剥ごうとする。
しかし力の差というものがあって、汰絽の努力は報われなかった。
ふがふがと止めて、という汰絽にげらげらと笑う。
そのやりとりは、夏翔の着いたぞー、と到着を知らせる言葉まで続いた。

車から降りて病院内に入る。
汰絽の頭をわしゃわしゃと撫でると猫っ毛が絡まり大変なことになった。
その猫っ毛をほどこうと、汰絽の指先が髪を梳く。
エレベーターに乗った時、急に緊張し始めた。


「俺も居て構わないんだよな?」

「…はい」

「緊張してるみたいだな」

「…少しだけ」

「…少しには見えない」

風太が苦笑するのを見て、汰絽は俯いた。
ドキドキと心臓が鳴る緊張の仕方というよりも、どこかピンと張りつめて力が入りきっているような緊張の仕方。
苦しさを感じる。


「たろ」

優しい声に呼ばれ顔を上げれば、風太が軽く微笑んだ。
それから大きな両手に頬を挟まれる。


「大丈夫」

綿あめのような、優しく甘い声。
一瞬心臓がドキリとして、それから力が抜けた。


「…ありがとうございます。…一緒に居てください」

「おう」

風太がもう一度優しく笑って、汰絽もその笑顔にそっと笑い返した。
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