もしかして:
通学路にやっと咲いた桜は、ようやく散り始めた。
ゆっくりとひらひら降ってくる桜の花びらにため息をつく。
何が辛いわけでもないけれど、ただため息が漏れる。
そっとそれを飲みこみ、汰絽は前を向いた。
人通りの少ない道をゆっくりと歩く。
いつもは誰もいない道は、今日は例外だった。
背の高い人がだるそうに歩いている。
(あ…綺麗な人…)
すれ違う時に、一瞬だけ視線が交わった。
綺麗な青い瞳は、まさに青空の色。
あんなに綺麗な瞳があるなんて、汰絽は知らなかった。
「あ…」
思わず漏らした小さな声に、息をのみこむ。
振り返ったときにはもうあの綺麗な人はいなかった。
よくわからない心残りが、胸に落ちる。
チャイムが鳴るのを聞いて、汰絽は学校へ急いだ。
すれ違ったあの人は、汰絽と同じ制服を身にまとっていた。
「汰絽ーっ、おっはよー」
「よし君おはよ、元気だね」
「おうよ。むくちゃんは元気かい?」
「うん。元気だよ」
ゆるくあいさつしてきた中学からの親友。
中学時に必死に勉強をしていて、友人ができなかった汰絽にできた唯一の友人の、一外好野だ。
ふたりのゆるやかな雰囲気に、教室は和やかになる。
汰絽はすぐに自分の席に鞄を置き、腰をかけた。
それから、朝すれ違った人について、好野に聞こうと口を開く。
「よし君、青い目の綺麗な人知ってる?」
「ん? …青い目…。っはっ! も、もも、もしや、汰絽さん、それはここの…」
「ん、そうだと思う。おんなじ制服着てたから」
「そそそそか」
「どうしたの? よし君、変だよー」
「あ、あああのな、汰絽、その人は」
好野が青い顔をするのを見て、汰絽は笑いながら、なに、と答えた。
あわあわと震えている好野の口が面白い。
いつもにまして、マイペースな汰絽は、慌てる好野とは正反対に楽しそうに笑った。
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