うっかり
屋上の扉を開くと、青々とした空が広がっている。
うんと背伸びをした汰絽と好野の横を、風太と杏が通る。
フェンスに背中を預け座ったふたりを見て、汰絽達もそちらへ向かった。
風太と杏の前に座ったふたりはほっと一息つく。


「春野先輩」

ゆったりとした雰囲気に、汰絽は風太にそっと声をかけてみた。
んー、とおざなりな返事が返ってくる。
その返事に汰絽の頬がいっぱいいっぱいに膨らんだ。
静かになった汰絽をみた風太は、金魚のように膨らんだ頬に思わず噴き出した。


「金魚かよ」

「おざなりです」

「はいはい。で、なんだよ」

「呼んだだけですよー」

「お前なぁ…」

「…元気そうでなによりです」

汰絽がほわっと笑いながらそう言う。
その言葉に風太は、はっとした。

―…朝のこと、心配してたのか。

汰絽の思いを感じ、風太は柔らかく笑った。
その珍しい笑みに、杏が目を見開く。


「…はるのんにあるまじき笑い方…」

「あ?」

「春野先輩、不良さんみたい」

「いや、汰絽…、それほんとのことだから」

好野の突っ込みに汰絽はぽん、と手を叩く。
そんなふたりに杏が声をあげて笑った。


「ほんと、汰絽ちゃんって面白いなー」

「それほどでもー!」

「面白いよ。ところで。お昼食べないの?」

「あっ! …お弁当箱、忘れてきてしまいました…」

「俺も…、汰絽、俺取ってくるから」

「うん、お願い」

汰絽の頼みに好野は頷いて立ち上がった。
好野が立ち上がった後に杏も腰を上げる。
それから好野の後を追う様に階段へ向かって行った。


「あん先輩もお弁当忘れたんですか?」

風太にそう問いかけると、さあな、と一言返ってきた。
その質問はどうでもいいのか、風太は汰絽の頬に手を伸ばす。
大きな手のひらが頬を軽く撫でてきて、汰絽は首をかしげた。
そんな汰絽に軽く笑い、手を離す。


「昨日、むくと話した?」

「はい。…ちゃんと、お話しました」

「そうか、良かった」

「近いうちに、風斗さんのところに行きたいです。…いいでしょうか」

「ああ。明後日行くんだけど、お前も行くか?」

「お願いします」

風太の言葉に汰絽はぺこりと頭を下げた。
顔を上げれば、風太が微笑んでいるのが見える。
今日はよく笑っているな、と思いながら、汰絽も笑みを浮かべた。


「今、どうなるのか聞くのは、駄目だよな」

「…どうでしょうか」

「いや、俺も明日一緒に聞くわ」

「はい」

風太は汰絽の頬を撫で、アスファルトの上に寝転がった。
頭の下で腕を組み、目を瞑る。
今にも寝息が聞こえてきそうだ。
汰絽はそんな風太を少し見つめ、それから空に視線を移した。
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