ぼんやりとする
「具合悪い?」

汰絽の様子に心配したのかそう尋ねられて、首を振る。


「いえ、元気、です」

「ならいい。…家まで迎えに行こうと思ったけど、朝早くに悪いと思ってな。…ここで、待ってた」

「…そうなんですか? …ありがとうございます」

「いや、別に礼を言われるようなことは…」

「あ、先輩、肩に葉っぱ…」

汰絽の細い指が繊細な仕草で、風太の肩に触れて、葉を取った。
緑色の葉っぱは先ほど眺めていた桜の葉だ。
風が強くて落ちてしまったのだろうか。
汰絽はそれを手のひらでそっと包む。


「ありがと」

「いえ」

「…そろそろ行くか」

「はい」

心地よい沈黙が訪れて、ふたりはゆっくりと学校へ向かった。
校門に着けば風太が急に足を止めて、汰絽の頭を撫でる。
気持ちよさに目を細めると風太が軽く笑った。


「ここまでな」

「学校は…?」

「親父がちょっと体調崩したって。大したことないだろうけど、面会時間になったら来いって言われた」

「か、風斗さんが…っ!?」

「大丈夫だって。ちょっと様子見てきてどうだったか教えるから。安心しろ」

「…はい、」

「たろ」

そっと名前を呼ぶと汰絽は答えるように顔を上げた。
風太を見ると、でこぴんの形をした指が目に入る。
構える暇もなく、いい音が鳴り、汰絽は間の抜けた声を漏らした。


「あたっ」

「元気出せよ。昼には戻ってくるから」

「はいっ」

「昼、教室まで迎えに行くな」

「それは、ちょっと…」

「はいはい。自販機のとこな」

風太の言葉にこくりと頷く。
その様子に笑った風太は、またなと言って学校前にあるコンビニに向かっていった。
コンビニに入っていく背中を少し見つめてから、汰絽は校舎へ足を進める。

教室に入り、好野と挨拶を交わしてから、自分の席に着く。
真っ青な窓の外を見上げながら、あの時、風太に言われたことを思い出した。

―…元気がないの、春野先輩じゃないかな…。

考えているとそんな思いが浮かんできて、汰絽はため息をついた。
もうホームルームも終わり、1限目が始める。


「六十里、どうしたー? 窓の外なんかあるかー?」

担任にからかわれて、クラス中が笑う。
その笑い声に顔を上げれば、もう授業は始まっていた。
はっとしてももう遅い。
教師も生徒の視線も汰絽に集中している。
机の上には筆箱しか乗っておらず、教科書を取り出そうと机の中をあさった。
けれど、目当ての教科書は出てくる気配がない。


「おいおい、どうした」

「い、いえ」

「教科書ぐらい、開いてくれよな」

「…すみません、せんせぇ。教科書、ロッカーに…」

「お前なぁ…!!」

恥ずかしそうに廊下のロッカーに向かう汰絽に、教室の中が大きな笑い声に包まれた。
そんな明るさの中に戻ってきても、頭の中は風太のことでいっぱいになっている。
ぼーっとしていて、授業に集中することすらできなかった。
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