オムレツ
ふっくらと木の葉型の黄色の卵。
上には美味しそうな赤色のケチャップがかかっていて、むくはきらきらと目を輝かせた。
汰絽の得意な、ふわふわオムレツ。
中にはひき肉とみじん切りにして炒めた玉ねぎも入っている。
いそいそとイスに座って、汰絽を見た。
オニオンスープもついていて、とても優しい香りがする。


「おいしそう…っ!」

「むくの大好きなオムレツだよ」

「うんっ」

「いただきますしようね」

「はあい」

ぱんと合わせられた手を見て、思わず笑う。
一緒にいただきますをしてから、スプーンを手に取った。


「ふあふあ、おいし…っ」

ふあーっと美味しそうな顔をするむくに微笑みながら、汰絽もオムレツを食べる。
我ながら、美味しい。
オムレツはむくが好きだから、いつの間にか得意料理になっていた。
そのことを思い出して、思わず笑ってしまう。


「むく、ごはん食べたらゆっくりしようか」

頬についた卵を指先で掬いながら、そう伝えた。


リビングのカーペットに腰をおろして、テレビをつける。
テレビの音が大きく聞こえて、汰絽は音量を下げた。
教育番組の音楽の暖かさで、家の中がほんわかとした雰囲気になる。
むくがばっと立ち上がって、テレビの中のお兄さんと一緒に踊り始めた。


「むく、上手だね」

「えへへー、せんせーにおしえてもらったの!」

「そうなの? 上手、上手」

楽しそうに踊る無邪気なむくに微笑んで、手拍子をした。
汰絽の一番好きな、むくの明るい表情に嬉しくなる。
踊りが終わるのと同時に、むくがばっと飛びついてきて、汰絽は笑いながらむくを抱きしめた。
抱き合ったままカーペットの上に倒れてクスクスと笑う。


「たぁちゃん、あのね…」

「ん? なあに」

「たぁちゃん、大好きなの」

「…うん?」

「だからね、きゅーって、きゅーって、顔しないで」

「きゅー?」

きゅーっと言いながら眉を寄せて泣きそうな顔をするむくに、汰絽は小さく困った様に笑った。
むくの言いたいことが分かって、うん、ごめんねと答えると、ぐりぐりと胸に頭を押し付けてくる。
可愛らしい行動に、むくの頭を撫でて、微笑んだ。
愛おしい、と思う気持ちがぶわっと胸に広がって、心が温かくなる。


「むく、あのね。お話があるの」

こくりと頷いたむくに、汰絽は心を決める。


「むくは、家族が増えると、嬉しい?」

目頭が熱くなるのを感じながら尋ねた声に、いつになく力がこもるのを感じた。
汰絽の問いかけに、むくのぽかんとした表情が目に入る。
そんな不思議そうな表情に力が抜けて、ふにゃりと笑ってしまった。


「かぞく…?」

「ふたりぼっちじゃなくって、たろだけじゃなくって、暖かいお家でみんなで過ごすの」

「みんな…?」

「うん、みんな。たろとふたりじゃなくて、家族で」

むくの困ったような表情に、汰絽は小さく息を詰める。
急すぎたかな、そんな思いが胸によぎって、表情が暗くなってしまった。
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