ねんね
「春野先輩、」

「ん?」

「ありがとうございました」

「…いや、こちらこそ」

汰絽が頭を下げたのを見て、風太も同じように頭を下げる。
顔を上げると、どちらともなく笑えてきて、ふたりは小さな声で笑った。
ふわり、とはにかむような可愛らしい笑顔が見えて、風太は目を瞑る。
泣いている時と、笑っている時。
まったく違う表情が、ころころと産まれてきて、面白い。


「今夜、むくと話してみます」

「がんばれよ」

「はい」

また訪れた沈黙に、汰絽はそっと目を瞑る。
車の振動に眠気が誘われて、意識が遠退くのを感じた。


「…ろ」

「ん…」

「たろ、ついたぞ」

「ん、あ…、はい」

「携帯の番号、書いておいたから。何かあったら電話しろ」

「ありがとうございます」

風太に渡された紙を見て、汰絽は小さく頷いた。
車からおりて、むずがるむくを抱き上げる。
優しく背中を叩くと、ううん、と聞こえて、微笑んだ。


「春野先輩、井川さん、ありがとうございました」

「いいえ。むくちゃん、じゃあな」

「んう…、ばあいばいー、ふうたー、かしょーさん」

「はは、じゃあな、むく」

風太と夏翔がむくの頭を撫でて、車に乗り込む。
手を振って、車が走り出した。

まだまだ眠たそうなむくの背中を撫でてやり、そっと額に口付ける。
風見鶏の家に入って、ほっと息をついた。
リビングのカーペットの上に長座布団を敷いて、むくをおろす。
肌触りの良いタオルケットをかけて、汰絽も腰を下ろした。

そっと蜂蜜色を撫でる。
しっとりと汗をかいていて、手のひらに感じるこども体温に思わず微笑んだ。


「ん…うー…」

「まだ寝てていいよ。ゆっくり、ねんねしてね」

すうすうと聞こえ始めた寝息に、もう一度安堵して、汰絽はむくの髪から手を離した。
ゆっくりと立ちあがってキッチンへ向かう。
起きたころには、昼食ができているだろう。
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