約束
「俺が聞くから」
「…甘えたら、弱くなる」
「構わない。弱くなっても、全部受け止めてやるよ」
頬を撫でながら、強い口調で言う。
安心させるように、額を押しつけた。
怯えるように目を瞑った汰絽の言葉を待つ。
「…ひとりに、なるのが…、こわいんです」
「一緒にいてやる。ひとりにしない」
「…約束?」
「おう。約束だ。指きり、するか?」
「…はい」
やっと瞼を上げた汰絽に笑いかけて、額を離した。
風太が小指を差し出すのを見て、おずおずと小指を差し出す。
絡み合った小指が何度か上下に振られて、離された。
汰絽がその小指を見て、笑みを零す。
やっと見れた晴れた顔に、風太も小さく笑った。
「お前が、泣きそうな顔してたのは、封筒の中身のことだよな」
小さく頷いて、風太を見上げた。
優しい顔をした風太にほっと息をつく。
「お前はどう思ってんの?」
「…むくと…、僕にとっては、とてもありがたい話だと思っています…けど」
素直にそう伝えて、風太の答えを待つ。
けど…の後は少しだけ言いたくなかった。
少し考えるそぶりをした風太はまっすぐに、汰絽を見つめた。
「けど、どうした?」
「けど…、春野先輩や、風斗さんに、迷惑なんじゃないかって」
「迷惑?」
「…はい。だって、他人ですよ? 急に家族になっても、困るんじゃないかって…」
「他人なぁ…。俺的にはお前とはもう、他人じゃないつもりだったんだけど」
「先輩?」
風太が苦笑したのを見て、汰絽は首をかしげる。
もう一度考え込んだ風太に、汰絽は傷つけてしまった唇を舐めた。
少しだけぴりっとした痛みを感じる。
「…この話は一旦置いといていいか?」
「かまいません」
「俺がひとり暮らしをしてる理由、聞いてくれ」
こくりと頷いて、風太の言葉を待った。
ひとつひとつ言葉を選んでいるのか、風太は腕組みをして、トントン、と指を動かした。
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