ひとりじゃなくて、ふたりで
廊下に出て、すぐに風太は壁に背中を預けた。
同じように汰絽も隣に来て、ちらりと風太を見上げる。
視線が絡み合って顔をそらせば風太が困ったように声を上げるのを聞いた。


「…たろ」

「はい」

「すごい顔してる」

「もともとすごい顔です」

「元はもっと可愛いぞ」

風太の言葉にばっと顔をあげて、きっと睨みつけた。
初めて見る、汰絽の表情に風太は小さく笑う。
気は強い方なんだな、そう思うと新しい汰絽を見つけたようで嬉しくなった。


「…、可愛いなんて言われても嬉しくない」

「そうか。じゃあ、もう言わない」

「…」

ぽんぽん、と宥めるように頭を撫でられて、汰絽はもう一度顔を俯かせた。
風太の顔からはもう笑みは見えない。
優しいけれど、どこか大人のような表情。
風太は一度深呼吸してから、低い声をだした。


「むくが不安そうな顔をしていた」

「…むくが?」

「あぁ。お前が呼びに来た時。酷い顔をしてたから、不安がってた」

不安がっていた。
風太の言葉にピクリと汰絽の肩が震える。
その動きを見て、汰絽の言葉を待った。


「…酷い顔って…?」

「今にも泣き出しそうな顔」

「…泣き出しそうだなんて…!」

「今も同じ顔してる」

「…っ」

しゅん、とした様子が見えて、大きくため息をついた。
本格的に顔を俯けてしまった汰絽の頭を、こつん、と手の甲で叩く。


「いたっ」

「無理するなって言っただろ? もう忘れたのか」

「無理なんて、してないです」

「無理してる」

「してない」

「してるっつってんだろ」

風太にぎゅっと手を握られて、顔を上げた。
目元に強く力が入っているのがわかる。
力を入れてないと、涙がこぼれてしまいそうだった。


「むくのこと、思ってるんだったら、ひとりで悩むんじゃなくて、ふたりで悩めばいいだろ」

「…むくにはまだ早いです。家族が増えるってことは、今の環境を壊すってことで、それが、どんなに…、どんなに…」

「どんなに?」

「どんなに…、怖いことか、先輩はわかってない」

「それが、お前にとてもむくにとってもいいことでも?」

こくりと頷いて、汰絽は噛みしめていた唇から、そっと力を抜いた。
涙がこぼれないように、不器用に。
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