胸やけ
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途中、看護師に道を聞いて、屋上庭園に辿り着いた。
むくの楽しそうな声を聞いて、小さく微笑む。
その声を頼りに進んでいくと、風太とむくが遊んでいた。
大きな木に手作りのブランコがぶら下がっている。
「たぁちゃん!」
「むく…」
駆け寄ってきたむくをそっと抱きしめた。
抱きしめられたむくはよくわからないと言いたそうに、口を開ける。
それでも汰絽の背中に回った手には力が入っていた。
ゆっくりとこちらに来た風太は、汰絽の頭を撫でる。
「どうした?」
「…いえ。話が終わったので、お迎えにきました」
「あぁ。…たろ、後で話がある」
「はい。…むく、おててつなごっか」
「うん!」
嬉しそうに汰絽の手をつなぐむくに、風太は軽く笑った。
汰絽を見上げて微笑むむくを見ていると、優しい気持ちになれる。
3人で屋上庭園を後にして、風斗の病室へ向かった。
病室に入ると、風斗がお笑い番組を見て、クスクスと笑っていた。
とても元気そうで、風太が呆れてため息をついたのが聞こえる。
「親父」
「お、戻ってきたね」
「かざとっ」
風太と顔を合わせて頷いた風斗を見て、むくがベッドに近づいた。
よじ登って、風斗の足の上にぽすん、と頭を乗せる。
にこっと満面の笑みを浮かべたむくに、風斗も微笑み返した。
「むく君は、笑顔が素敵だね」
「うんっ。むくがね、笑顔になると、たぁちゃんも笑ってくれるの!」
「そうなの? それは嬉しいね。むく君は汰絽君を笑顔にできるんだね。格好いいなぁ」
「うん! えへへ、むくかっこいい?」
「うん、かっこいいよ!」
むくが嬉しそうにはしゃぐのを見て、汰絽は顔を伏せた。
先ほどの風斗の話を思い出すと、心が重たくなる。
―…僕はともかく…、むくにとっては悪い話じゃない。
そう思っても、やっぱりどこか苦しいものがある。
胸やけをしたかのように、ぐるぐるとするものがこみ上げてきて、胸元をつかんだ。
汰絽が風斗からされた話のことを考えてることがわかって、風太は汰絽に小さな声で声をかけた。
聞こえていないのか、汰絽は返事をせずに俯いている。
「たろ、ちょっと」
2回目に呼びかけてようやく顔を上げた汰絽に、指で廊下を差す。
小さく頷いた汰絽を見てから、風斗に声をかけて部屋を出た。
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