家族になりませんか。
手渡された紙に書かれた養子縁組の文字。
急なことに口を開いたまま風斗を見れば困ったように微笑んだ。
「私は前々から考えていて、風太にも了承を取ってることなんだけどね」
「…え?」
「アンリさんに君たちのことを頼まれた日。風太に君たちと家族になっても構わないか、と尋ねた」
「…」
「彼はふたつ返事をくれた。だから、君とむく君と、家族を作りたい」
風斗が汰絽の表情を見るように、口を閉じた。
真摯な思いが伝わってきて、そっと目を閉じる。
描いたのは、風太と風斗、むくと自分。
「…家族…」
「うん、君の家族になりたい」
「でも、」
「そうだね。君の人生に関わることになるから…。ゆっくり考えて」
「はい」
「ひとつ。こんなことを言うのはずるいと思うけど…。経済面でも負担ができるから、話を持ちかけているんだよ」
風斗がいたずらっ子のようににやりと笑って、汰絽は詰めていた息を吐き出した。
封筒に書類をしまいながら、風斗は優しく微笑む。
汰絽の気持ちが全部わかっているようだ。
「…期限は、ありますか?」
「許可書を貰ったのが今日だから、10日以内に」
「わかりました…。よく、考えてみます」
「うん。…汰絽君の答えなら、どんな答えでも受け止めるから」
「…ありがとうございます」
汰絽が俯くのを見て、風太は困ったように微笑んだ。
自分の息子とはまったく違った汰絽がとても愛おしい。
もし養子になってくれたら、むくとともに我が子のように可愛がるつもりだ。
―…できれば、良い答えを聞きたいものだ。
心の中で小さく呟いて、汰絽の頭を撫でた。
「汰絽君、風太とむく君を呼んできてくれるかな」
「はい、」
俯いたまま部屋を出て行った汰絽を見て、息を吐き出した。
緊張していたようで、少し咳込んでしまう。
汰絽の気持ちを考えながら、窓を見つめた。
―…言いたいことはたくさんある。
―…けれど、言葉だけでは伝えられないこともあるから。
―…風太も、彼と過ごすことで変わる気がする。
様々な考えを押しこめて、ベッドに横になった。
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