風の吹く部屋
明るい病室に入ったら、ぶわりと大きな風が吹いた。
目の前の白い髪が風に揺れるのを見て、綺麗だと思う。
そんな些細なことを見つめていると、風太が歩みを再開させた。

真っ白なベッドが先に目に入った。
その次に、金色の髪が揺れてるのが見える。


「…っ、風斗、さんっ」

汰絽の小さな声が風にかき消されそうになりながら、部屋に響いた。


「汰絽君?」

帰ってきた返事は思っていたよりも元気そうで、それでいて驚きを含んでいた。
汰絽の後ろに隠れていたむくも出てきて、風斗を見上げる。


「かざと…」

「むく君も来てくれたんだね」

「うん、むくも来たの」

「そうか。元気そうだね、おっきくなったね」

「うんっ、かざと…!!」

嬉しそうにベッドに駆け寄ったむくの頭を風斗が撫でた。
少し痩せたように見えるけれど、元気そうだ。
こっちにおいで。
優しい声に呼ばれて、汰絽もすぐに傍に寄った。


「こんな格好でごめんね」

そう風斗が言うのを聞いて、汰絽はこくこくと頷いた。
声が出せないのか、何度も頷くのを見て、風斗が笑う。
むくの小さな手が風斗の手を握って、風斗は汰絽の手を握った。
ぎゅっと握りしめられた手に、答えるように汰絽も握り返す。


「元気そうで良かった。汰絽君も、大きくなったね」

「…っ」

こくりと頷いた汰絽の目がうるんで、風斗が微かに笑った。


「むくね! 毎日ちゃんと、ようちえんいってるの」

「偉いね。さすが。…汰絽君のお弁当は美味しいかい?」

「うんっ。すっごく美味しいよ」

「そっか、良かったね。うらやましいなぁ…」

むくがにこにこと嬉しそうに笑うから、汰絽も思わず小さく笑った。
それにつられて、風斗も笑う。
風太はそんな3人を見ながら、開け放たれた窓を締めた。
いつもより穏やかな父の表情を見れて、ほっと一息吐いた。
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