泣いてるの? 大丈夫
「たあちゃん、しくしく…?」

不安そうな声に、汰絽は目をこすった。
ベッドにちょこんと座ったむくが汰絽を見つめている。


「むく、起きてたの…?」

「んーん。おトイレ」

「ひとりで行けたの?」

「ん。できた。たあちゃんおめめ」

「うん。…ちょっと心が汗をかいてるの」

「ごしごしよーね」

小さな手が、汰絽の頬を拭いた。
少し乱暴だけど、温かで優しい手に、汰絽は涙が止まらなくなる。
どんな悲しい気持ちも、むくのおかげで少し安らぐ。
それは汰絽がひとりぼっちになってしまって、春野がくれたむくにしかできないことだ。
汰絽は祖母と話したその日、むくをぎゅっと抱きしめて眠りについた。


「おばあちゃん…」

「もう、そろそろね…」

「おばあちゃん…っ」

「大丈夫よ。ああ、とても幸せな人生だったわ…」

「ばあば…。どこいくの?」

「むくちゃん、じいじのところよ」

祖母の幸せそうな顔に、むくが微笑んだ。
幼いながらに、祖母がどこか遠くに行ってしまうことが分かっているのか、涙をこらえたような笑みだった。
汰絽はそんなむくを見習う様に、精一杯微笑む。


「うん、大丈夫…! おばあちゃん、安心してね。むくと、むくと幸せになるから」

「…ええ、幸せになって…」

「うん…! 絶対に、幸せになるから…っ」

「泣き虫な汰絽ちゃん。おばあちゃんの、大好きな、汰絽ちゃんとむくちゃん…」

最後は、涙がこらえきれなかった。
ぽたぽたと握り締めた祖母の手に零れる。
幸せそうな祖母の顔に、汰絽もむくもきゅっと涙をこらえて笑った。
傍にいた看護師達も泣いている。
祖母は、誰からも好かれる、とても優しい人だった。


「たあちゃん、しくしく」

「ううん、大丈夫だよ」

きゅっと抱きしめた小さなぬくもりに、汰絽はそっと目を瞑った。
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