写真立て
リビングのカーペットで横になった風太とむくを見た。
嬉しそうにぱたぱたと揺れる足。
小さく笑うと、むくが振り返った。


「たぁちゃんっ、見てー!! 風太絵がじょうず!!」

むくに呼ばれて隣に行くと、ふたりが書きこんでいたスケッチブックが目に入った。
デフォルト化された猫やキリン。
風太の持つ色鉛筆に目をやった。


「ほんとだ。上手ですね、先輩」

「まあな。むく、次は何が良い?」

「ゾウさーん!!」

むくの要望にこたえて描き始める風太の横顔を見る。
綺麗なラインを眺めていると、目があった。
空色の瞳がまっすぐに見つめてきて、汰絽は思わず顔をそむける。


「あ、お風呂、洗ってきます、ね」

「おう。…むく、ほら」

「わあ!! すごいっ、つぎっ、つぎペンギン!」

「はいはい」

言われたままにスケッチブックに描いていく。
むくも風太の隣でお絵かきを始めたころ、風太は立ち上がった。
テレビの脇の棚に飾られた写真立て。
前に見た時は、特には気にしなかった。


「むく、この人ばあさん?」

「うんっ。おばあちゃんと、むくとたあちゃん」

「この赤ん坊がお前?」

「そー!」

写真立ての中で笑っている綺麗な蜂蜜色の髪の女性。
優しそうな表情で汰絽の肩を抱いていた。
少し寂しそうな、それでいてとても幸せそうな表情をした少年。
今よりも幼い汰絽の表情が、目に焼き付いた。

不意に隣の写真立てに目を移して気付いた。
汰絽と、おそらく汰絽の両親。
それから、むくの両親。
全員が写ったその写真は、少しだけ色あせている。


「この写真は?」

「あ、その写真は…」

振り返ると、汰絽が立っていた。
干し終えた洗濯物を抱えていて、風太は目を細める。
写真と同じ、少し寂しそうな表情をした汰絽が、小さく微笑んだ。
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