お昼
「お。たろじゃん」
玄関前の自販機。
好野がジュースを買うのについてきた汰絽は、後ろから声をかけられ振り向いた。
後ろに立っていたのは先日知り合ったばかりの先輩。
風太の後ろには、杏も立っていた。
「春野先輩、どうしたんですか?」
「飲み物買いに。お前は?」
「よし君の付き添いです」
「へえ」
自販機で悩んでいる好野の後ろから杏が抱きついた。
急に背中に重みを感じた好野は笑いながら、杏を背負る。
楽しげなふたりを見ながら、風太は小銭を手のひらの中でちゃりちゃりと音を鳴らした。
「昼どこで食べてんの」
「お昼は教室で食べてますよ」
「へえ。…あのさ、昼一緒に食わね?」
「え? どこでですか?」
汰絽がこてんと首をかしげる。
そんな汰絽に風太は笑いながら、ふわふわな蜂蜜色を撫でた。
「今は空き教室で食べてる」
「じゃあ、ご一緒してもいいでしょうか」
「おう。昼持ってきてる?」
「いえ。取りに行ってきます、待ってて下さいな」
「おう」
好野にその旨を告げ、汰絽は教室へ向かう。
飲み物を買った好野と杏を見て、風太も飲み物を選んだ。
「はるのん、はるのん」
「なんだよ」
「この間、汰絽ちゃんのお友達紹介してなかったでしょー」
「…ああ、フツメン」
「そそ。フツメン」
フツメンフツメンと呼ばれながら、好野は困ったように風太を見た。
風太はあまり興味がない、といった様子で好野を見る。
「汰絽の親友の、一外好野です。…汰絽、携帯持ってないんで、なんかあったら、杏先輩通じて連絡してください」
「…それは助かる」
「それと、俺も昼一緒してもいいですか」
「別に、構わない」
ふい、と好野から視線を外し、携帯を手に取った。
意味もなくパタパタと開けたり閉じたりする。
好野はそんな風太から視線を外し、杏と会話を始めた。
「すみません、遅くなりました」
「いや、そんなに待ってない。行くか?」
「はい。あ、よし君、鞄」
「ありがと、汰絽」
前を風太と汰絽。
後ろに杏と好野が歩いた。
特進文系の汰絽達と、特進理系の風太達とは教室のある棟が違う。
初めて入る理系棟は、文系棟とは少し異なっている。
階段をのぼり、すぐのところにある教室に入った。
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